校異源氏物語 powerd by Gatsby CETEIcean
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校異源氏物語・みのり
池田亀鑑
Transcription
Misa Nakamura
Transcription
Michi Kigoshi
Transcription
Takashi Tamura
TEI Encoding
Satoru Nakamura
Advisor
Kiyonori Nagasaki
デジタル源氏物語
2020年08月22日
CC0 1.0 Universal (CC0 1.0) Public Domain Dedication
池田亀鑑
校異源氏物語
中央公論社
旧字は
史料編纂所データベース異体字同定一覧
を用いて新字に変換した。
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むらさきのうへいたうわつらひ給し御心ちの後いとあつしくなり給てそこはか
むらさきのうへいたうわつらひ給し御心ちの後いとあつしくなり給てそこはか
となくなやみわたり給ことひさしくなりぬいとおとろ〱しうはあらねとゝし
となくなやみわたり給ことひさしくなりぬいとおとろ〱しうはあらねとゝし
月かさなれはたのもしけなくいとゝあえかになりまさり給へるを院のおもほし
月かさなれはたのもしけなくいとゝあえかになりまさり給へるを院のおもほし
なけく事かきりなしゝはしにてもをくれきこえ給はむことをはいみしかるへく
なけく事かきりなしゝはしにてもをくれきこえ給はむことをはいみしかるへく
おほし身つからの御こゝちにはこの世にあかぬことなくうしろめたきほたした
おほし身つからの御こゝちにはこの世にあかぬことなくうしろめたきほたした
にましらぬ御身なれはあなかちにかけとゝめまほしき御いのちともおほされぬ
にましらぬ御身なれはあなかちにかけとゝめまほしき御いのちともおほされぬ
をとしころの御契かけはなれ思なけかせたてまつらむ事のみそ人しれぬ御心の
をとしころの御契かけはなれ思なけかせたてまつらむ事のみそ人しれぬ御心の
中にも物あはれにおほされける後の世のためにとたうとき事ともをおほくせさ
中にも物あはれにおほされける後の世のためにとたうとき事ともをおほくせさ
せ給つゝいかてなをほいあるさまになりてしはしもかゝつらはむ命のほとはを
せ給つゝいかてなをほいあるさまになりてしはしもかゝつらはむ命のほとはを
こなひをまきれなくとたゆみなくおほしの給へとさらにゆるしきこえ給はすさ
こなひをまきれなくとたゆみなくおほしの給へとさらにゆるしきこえ給はすさ
るはわか御心にもしかおほしそめたるすちなれはかくねんころに思給へるつい
るはわか御心にもしかおほしそめたるすちなれはかくねんころに思給へるつい
てにもよをされておなしみちにもいりなんとおほせとひとたひ家をいて給なは
てにもよをされておなしみちにもいりなんとおほせとひとたひ家をいて給なは
かりにもこの世をかへりみんとはおほしをきてす後の世にはおなしはちすのさ
かりにもこの世をかへりみんとはおほしをきてす後の世にはおなしはちすのさ
をもわけんと契かはしきこえ給てたのみをかけ給御中なれとこゝなからつとめ
をもわけんと契かはしきこえ給てたのみをかけ給御中なれとこゝなからつとめ
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給はんほとはおなし山なりともみねをへたてゝあひみたてまつらぬすみかにか
給はんほとはおなし山なりともみねをへたてゝあひみたてまつらぬすみかにか
けはなれなん事をのみおほしまうけたるにかくいとたのもしけなきさまになや
けはなれなん事をのみおほしまうけたるにかくいとたのもしけなきさまになや
みあつい給へはいと心くるしき御ありさまをいまはとゆきはなれんきさみには
みあつい給へはいと心くるしき御ありさまをいまはとゆきはなれんきさみには
すてかたく中〱山水のすみかにこりぬへくおほしとゝこほるほとにたゝうち
すてかたく中〱山水のすみかにこりぬへくおほしとゝこほるほとにたゝうち
あさえたるおもひのまゝの道心おこす人ゝにはこよなうをくれ給ぬへかめり御
あさえたるおもひのまゝの道心おこす人ゝにはこよなうをくれ給ぬへかめり御
ゆるしなくて心ひとつにおほしたゝむもさまあしくほいなきやうなれはこのこ
ゆるしなくて心ひとつにおほしたゝむもさまあしくほいなきやうなれはこのこ
とによりてそ女君はうらめしく思きこえ給ける我御身をもつみかろかるましき
とによりてそ女君はうらめしく思きこえ給ける我御身をもつみかろかるましき
にやとうしろめたくおほされけりとしころわたくしの御くはんにてかゝせたて
にやとうしろめたくおほされけりとしころわたくしの御くはんにてかゝせたて
まつり給ける法花経千部いそきてくやうし給わか御殿とおほす二条院にてそし
まつり給ける法花経千部いそきてくやうし給わか御殿とおほす二条院にてそし
給ける七そうのほうふくなとしな〱たまはすものゝいろぬいめよりはしめて
給ける七そうのほうふくなとしな〱たまはすものゝいろぬいめよりはしめて
きよらなることかきりなしおほかたなに事もいといかめしきわさともをせられ
きよらなることかきりなしおほかたなに事もいといかめしきわさともをせられ
たりこと〱しきさまにもきこえ給はさりけれはくはしき事ともゝしらせ給は
たりこと〱しきさまにもきこえ給はさりけれはくはしき事ともゝしらせ給は
さりけるに女の御をきてにてはいたりふかくほとけのみちにさへかよひ給ける
さりけるに女の御をきてにてはいたりふかくほとけのみちにさへかよひ給ける
御心の程なとを院はいとかきりなしとみたてまつり給てたゝおほかたの御しつ
御心の程なとを院はいとかきりなしとみたてまつり給てたゝおほかたの御しつ
Page 1383
らひなにかのことはかりをなんいとなませ給ける楽人舞人なとのことは大将の
らひなにかのことはかりをなんいとなませ給ける楽人舞人なとのことは大将の
君とりわきてつかうまつり給うち春宮后の宮たちをはしめたてまつりて御かた
君とりわきてつかうまつり給うち春宮后の宮たちをはしめたてまつりて御かた
〱こゝかしこにみす経ほうもちなとはかりのことをうちし給たに所せきにま
〱こゝかしこにみす経ほうもちなとはかりのことをうちし給たに所せきにま
してそのころこの御いそきをつかうまつらぬ所なけれはいとこちたきことゝも
してそのころこの御いそきをつかうまつらぬ所なけれはいとこちたきことゝも
ありいつのほとにいとかく色〱おほしまうけゝんけにいそのかみの世〻へた
ありいつのほとにいとかく色〱おほしまうけゝんけにいそのかみの世〻へた
る御くわんにやとそみえたる花ちる里ときこえし御かたあかしなともわたり給
る御くわんにやとそみえたる花ちる里ときこえし御かたあかしなともわたり給
へりみなみひんかしのとをあけておはしますしん殿のにしのぬりこめ也けり北
へりみなみひんかしのとをあけておはしますしん殿のにしのぬりこめ也けり北
のひさしにかた〱の御つほねともはさうしはかりをへたてつゝしたり三月の
のひさしにかた〱の御つほねともはさうしはかりをへたてつゝしたり三月の
十日なれは花さかりにて空のけしきなともうらゝかにものおもしろく仏のおは
十日なれは花さかりにて空のけしきなともうらゝかにものおもしろく仏のおは
すなる所のありさまとをからすおもひやられてことなりふかき心もなき人さへ
すなる所のありさまとをからすおもひやられてことなりふかき心もなき人さへ
つみをうしなひつへしたきゝこるさむたんのこゑもそこらつとひたるひゝきお
つみをうしなひつへしたきゝこるさむたんのこゑもそこらつとひたるひゝきお
とろ〱しきをうちやすみてしつまりたるほとたにあはれにおほさるゝをまし
とろ〱しきをうちやすみてしつまりたるほとたにあはれにおほさるゝをまし
てこのころとなりてはなに事につけても心ほそくのみおほしゝるあかしの御か
てこのころとなりてはなに事につけても心ほそくのみおほしゝるあかしの御か
たに三の宮してきこえたまへる
たに三の宮してきこえたまへる
Page 1384
おしからぬこの身なからもかきりとてたきゝつきなんことのかなしさ御か
おしからぬこの身なからもかきりとてたきゝつきなんことのかなしさ御か
へり心ほそきすちは後のきこえも心をくれたるわさにやそこはかとなくそあめ
へり心ほそきすちは後のきこえも心をくれたるわさにやそこはかとなくそあめ
る
る
たきゝこる思ひはけふをはしめにてこの世にねかふのりそはるけき夜もす
たきゝこる思ひはけふをはしめにてこの世にねかふのりそはるけき夜もす
からたうときことにうちあはせたるつゝみのこゑたえすおもしろしほの〱と
からたうときことにうちあはせたるつゝみのこゑたえすおもしろしほの〱と
あけゆくあさほらけ霞のまよりみえたる花の色〱なを春に心とまりぬへくに
あけゆくあさほらけ霞のまよりみえたる花の色〱なを春に心とまりぬへくに
ほひわたりてもゝ千とりのさへつりもふえのねにをとらぬ心地してものゝあは
ほひわたりてもゝ千とりのさへつりもふえのねにをとらぬ心地してものゝあは
れもおもしろさものこらぬほとにれうわうのまいてきうになるほとのすゑつか
れもおもしろさものこらぬほとにれうわうのまいてきうになるほとのすゑつか
たのかくはなやかにゝきはゝしくきこゆるにみな人のぬきかけたるものゝ色い
たのかくはなやかにゝきはゝしくきこゆるにみな人のぬきかけたるものゝ色い
ろなとも物のおりからにおかしうのみゝゆみこたちかんたちめの中にもものゝ
ろなとも物のおりからにおかしうのみゝゆみこたちかんたちめの中にもものゝ
上すともてのこさすあそひ給かみしも心ちよけにけうあるけしきともなるをみ
上すともてのこさすあそひ給かみしも心ちよけにけうあるけしきともなるをみ
給にものこりすくなしと身をおほしたる御心のうちにはよろつの事あはれにお
給にものこりすくなしと身をおほしたる御心のうちにはよろつの事あはれにお
ほえ給きのふれいならすおきゐ給へりしなこりにやいとくるしうしてふし給へ
ほえ給きのふれいならすおきゐ給へりしなこりにやいとくるしうしてふし給へ
りとしころかゝる物のおりことにまいりつとひあそひ給人〱の御かたちあり
りとしころかゝる物のおりことにまいりつとひあそひ給人〱の御かたちあり
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さまのをのかしゝさへともことふえのねをもけふやみきゝ給へきとちめなるら
さまのをのかしゝさへともことふえのねをもけふやみきゝ給へきとちめなるら
むとのみおほさるれはさしもめとまるましき人のかほともゝあはれにみえわた
むとのみおほさるれはさしもめとまるましき人のかほともゝあはれにみえわた
され給まして夏冬のときにつけたるあそひたはふれにもなまいとましきしたの
され給まして夏冬のときにつけたるあそひたはふれにもなまいとましきしたの
心はをのつからたちましりもすらめとさすかになさけをかはし給かた〱はた
心はをのつからたちましりもすらめとさすかになさけをかはし給かた〱はた
れもひさしくとまるへき世にはあらさなれとまつわれひとりゆくゑしらすなり
れもひさしくとまるへき世にはあらさなれとまつわれひとりゆくゑしらすなり
なむをおほしつゝくるいみしうあはれなりことはてゝをのかしゝかへり給なん
なむをおほしつゝくるいみしうあはれなりことはてゝをのかしゝかへり給なん
とするもとをきわかれめきておしまる花ちるさとの御かたに
とするもとをきわかれめきておしまる花ちるさとの御かたに
たえぬへきみのりなからそたのまるゝよゝにとむすふ中の契を御かへり
たえぬへきみのりなからそたのまるゝよゝにとむすふ中の契を御かへり
むすひをくちきりはたえし大方のゝこりすくなきみのりなりともやかてこ
むすひをくちきりはたえし大方のゝこりすくなきみのりなりともやかてこ
のついてにふたんのと経せんほうなとたゆみなくたうとき事ともせさせ給みす
のついてにふたんのと経せんほうなとたゆみなくたうとき事ともせさせ給みす
ほうはことなるしるしもみえてほともへぬれはれいのことになりてうちはへさ
ほうはことなるしるしもみえてほともへぬれはれいのことになりてうちはへさ
るへき所〱寺〱にてそせさせ給ける夏になりてはれいのあつさにさへいと
るへき所〱寺〱にてそせさせ給ける夏になりてはれいのあつさにさへいと
ゝきえ入給ぬへきおり〱おほかりそのことゝおとろおとろしからぬ御心ちな
ゝきえ入給ぬへきおり〱おほかりそのことゝおとろおとろしからぬ御心ちな
れとたゝいとよはきさまになり給へはむつかしけに所せくなやみ給こともなし
れとたゝいとよはきさまになり給へはむつかしけに所せくなやみ給こともなし
Page 1386
さふらふ人〱もいかにおはしまさむとするにかとおもひよるにもまつかきく
さふらふ人〱もいかにおはしまさむとするにかとおもひよるにもまつかきく
らしあたらしうかなしき御ありさまとみたてまつるかくのみおはすれは中宮こ
らしあたらしうかなしき御ありさまとみたてまつるかくのみおはすれは中宮こ
の院にまかてさせ給ひんかしのたいにおはしますへけれはこなたにはたまちき
の院にまかてさせ給ひんかしのたいにおはしますへけれはこなたにはたまちき
こえ給きしきなとれいにかはらねとこのよのありさまをみはてすなりぬるなと
こえ給きしきなとれいにかはらねとこのよのありさまをみはてすなりぬるなと
のみおほせはよろつにつけてものあはれなりなたいめんをきゝ給にもその人か
のみおほせはよろつにつけてものあはれなりなたいめんをきゝ給にもその人か
の人なとみゝとゝめてきかれ給ふかんたちめなといとおほくつかうまつり給へ
の人なとみゝとゝめてきかれ給ふかんたちめなといとおほくつかうまつり給へ
りひさしき御たいめんのとたえをめつらしくおほして御物かたりこまやかにき
りひさしき御たいめんのとたえをめつらしくおほして御物かたりこまやかにき
こえ給院いりたまひてこよひはすはなれたる心ちしてむとくなりやまかりてや
こえ給院いりたまひてこよひはすはなれたる心ちしてむとくなりやまかりてや
すみはへらんとてわたり給ぬおきゐたまへるをいとうれしとおほしたるもいと
すみはへらんとてわたり給ぬおきゐたまへるをいとうれしとおほしたるもいと
はかなきほとの御なくさめなりかた〱におはしましてはあなたにわたらせ給
はかなきほとの御なくさめなりかた〱におはしましてはあなたにわたらせ給
はんもかたしけなしまいらむことはたわりなくなりにてはへれはとてしはらく
はんもかたしけなしまいらむことはたわりなくなりにてはへれはとてしはらく
はこなたにおはすれはあかしの御かたもわたり給てこゝろふかけにしつまりた
はこなたにおはすれはあかしの御かたもわたり給てこゝろふかけにしつまりた
る御ものかたりともきこえかはし給うへは御心のうちにおほしめくらす事おほ
る御ものかたりともきこえかはし給うへは御心のうちにおほしめくらす事おほ
かれとさかしけになからむのちなとのたまひいつることもなしたゝなへてのよ
かれとさかしけになからむのちなとのたまひいつることもなしたゝなへてのよ
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のつねなきありさまをおほとかにことすくなゝる物からあさはかにはあらすの
のつねなきありさまをおほとかにことすくなゝる物からあさはかにはあらすの
たまひなしたるけはひなとそことにいてたらんよりもあはれに物こゝろほそき
たまひなしたるけはひなとそことにいてたらんよりもあはれに物こゝろほそき
御けしきはしるうみえける宮たちをみたてまつりたまうてもをの〱の御ゆく
御けしきはしるうみえける宮たちをみたてまつりたまうてもをの〱の御ゆく
すゑをゆかしく思きこえけるこそかくはかなかりける身をおしむ心のましりけ
すゑをゆかしく思きこえけるこそかくはかなかりける身をおしむ心のましりけ
るにやとて涙くみ給へる御かほのにほひいみしうおかしけなりなとかうのみお
るにやとて涙くみ給へる御かほのにほひいみしうおかしけなりなとかうのみお
ほしたらんとおほすに中宮うちなき給ひぬゆゝしけになとはきこえなし給はす
ほしたらんとおほすに中宮うちなき給ひぬゆゝしけになとはきこえなし給はす
ものゝついてなとにそとしころつかうまつりなれたる人〱のことなるよるへ
ものゝついてなとにそとしころつかうまつりなれたる人〱のことなるよるへ
なういとおしけなるこの人かの人はへらすなりなんのちに御心とゝめてたつね
なういとおしけなるこの人かの人はへらすなりなんのちに御心とゝめてたつね
おもほせなとはかりきこえ給けるみと経なとによりてそれいのわか御かたにわ
おもほせなとはかりきこえ給けるみと経なとによりてそれいのわか御かたにわ
たり給三宮はあまたの御中にいとおかしけにてありき給を御心ちのひまにはま
たり給三宮はあまたの御中にいとおかしけにてありき給を御心ちのひまにはま
へにすゑたてまつり給て人のきかぬまにまろかはへらさらむにおほしいてなん
へにすゑたてまつり給て人のきかぬまにまろかはへらさらむにおほしいてなん
やときこえ給へはいと恋しかりなむまろはうちのうへよりも宮よりもはゝをこ
やときこえ給へはいと恋しかりなむまろはうちのうへよりも宮よりもはゝをこ
そまさりて思きこゆれはおはせすは心ちむつかしかりなむとてめおしすりてま
そまさりて思きこゆれはおはせすは心ちむつかしかりなむとてめおしすりてま
きらはし給へるさまおかしけれはほゝゑみなから涙はおちぬおとなになり給ひ
きらはし給へるさまおかしけれはほゝゑみなから涙はおちぬおとなになり給ひ
Page 1388
なはこゝにすみ給てこのたいのまへなるこうはいとさくらとは花のおり〱に
なはこゝにすみ給てこのたいのまへなるこうはいとさくらとは花のおり〱に
心とゝめてもてあそひ給へさるへからむおりは仏にもたてまつり給へときこえ
心とゝめてもてあそひ給へさるへからむおりは仏にもたてまつり給へときこえ
給へはうちうなつきて御かほをまもりてなみたのおつへかめれはたちておはし
給へはうちうなつきて御かほをまもりてなみたのおつへかめれはたちておはし
ぬとりわきておほしたてまつり給へれはこの宮とひめ宮とをそみさしきこえ給
ぬとりわきておほしたてまつり給へれはこの宮とひめ宮とをそみさしきこえ給
はんことくちおしくあはれにおほされける秋まちつけて世中すこしすゝしくな
はんことくちおしくあはれにおほされける秋まちつけて世中すこしすゝしくな
りては御心ちもいさゝかさはやくやうなれと猶ともすれはかことかましさるは
りては御心ちもいさゝかさはやくやうなれと猶ともすれはかことかましさるは
身にしむ許おほさるへき秋かせならねと露けきおりかちにてすくし給中宮はま
身にしむ許おほさるへき秋かせならねと露けきおりかちにてすくし給中宮はま
いり給なんとするをゐましはしは御らむせよともきこえまほしうおほせともさ
いり給なんとするをゐましはしは御らむせよともきこえまほしうおほせともさ
かしきやうにもありうちの御つかひのひまなきもわつらはしけれはさもきこえ
かしきやうにもありうちの御つかひのひまなきもわつらはしけれはさもきこえ
給はぬにあなたにもえわたり給はねは宮そわたり給けるかたはらいたけれとけ
給はぬにあなたにもえわたり給はねは宮そわたり給けるかたはらいたけれとけ
にみたてまつらぬもかひなしとてこなたに御しつらひをことにせさせ給こよな
にみたてまつらぬもかひなしとてこなたに御しつらひをことにせさせ給こよな
うやせほそり給へれとかくてこそあてになまめかしきことのかきりなさもまさ
うやせほそり給へれとかくてこそあてになまめかしきことのかきりなさもまさ
りてめてたかりけれときしかたあまりにほひおほくあさ〱とおはせしさかり
りてめてたかりけれときしかたあまりにほひおほくあさ〱とおはせしさかり
は中〱このよの花のかほりにもよそへられ給しをかきりもなくらうたけにお
は中〱このよの花のかほりにもよそへられ給しをかきりもなくらうたけにお
Page 1389
かしけなる御さまにていとかりそめに思給へるけしきにる物なく心くるしくす
かしけなる御さまにていとかりそめに思給へるけしきにる物なく心くるしくす
ゝろにものかなし風すこく吹いてたるゆふ暮にせむさいみ給とてけうそくによ
ゝろにものかなし風すこく吹いてたるゆふ暮にせむさいみ給とてけうそくによ
りゐ給へるを院わたりてみたてまつり給ひてけふはいとよくおきゐ給めるはこ
りゐ給へるを院わたりてみたてまつり給ひてけふはいとよくおきゐ給めるはこ
のおまへにてはこよなく御心もはれ〱しけなめりかしときこえ給かはかりの
のおまへにてはこよなく御心もはれ〱しけなめりかしときこえ給かはかりの
ひまあるをもいとうれしとおもひきこえ給へる御けしきをみ給も心くるしくつ
ひまあるをもいとうれしとおもひきこえ給へる御けしきをみ給も心くるしくつ
ゐにいかにおほしさはかんと思にあはれなれは
ゐにいかにおほしさはかんと思にあはれなれは
をくとみる程そはかなきともすれは風にみたるゝ萩の上露けにそおれかへ
をくとみる程そはかなきともすれは風にみたるゝ萩の上露けにそおれかへ
りとまるへうもあらぬよそへられたるおりさへしのひかたきをみいたし給ても
りとまるへうもあらぬよそへられたるおりさへしのひかたきをみいたし給ても
やゝもせはきえをあらそふ露のよにをくれさきたつ程へすもかなとて御涙
やゝもせはきえをあらそふ露のよにをくれさきたつ程へすもかなとて御涙
をはらひあへ給はす宮
をはらひあへ給はす宮
秋風にしはしとまらぬ露のよをたれか草はのうへとのみゝんときこえかは
秋風にしはしとまらぬ露のよをたれか草はのうへとのみゝんときこえかは
し給御かたちともあらまほしくみるかひあるにつけてもかくてちとせをすくす
し給御かたちともあらまほしくみるかひあるにつけてもかくてちとせをすくす
わさもかなとおほさるれと心にかなはぬ事なれはかけとめんかたなきそかなし
わさもかなとおほさるれと心にかなはぬ事なれはかけとめんかたなきそかなし
かりけるいまはわたらせ給ひねみたり心ちいとくるしくなりはへりぬいふかひ
かりけるいまはわたらせ給ひねみたり心ちいとくるしくなりはへりぬいふかひ
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なくなりにける程といひなからいとなめけにはへりやとてみ木丁ひきよせてふ
なくなりにける程といひなからいとなめけにはへりやとてみ木丁ひきよせてふ
し給へるさまのつねよりもいとたのもしけなくみえ給へはいかにおほさるゝに
し給へるさまのつねよりもいとたのもしけなくみえ給へはいかにおほさるゝに
かとて宮は御てをとらへたてまつりてなく〱みたてまつり給にまことにきえ
かとて宮は御てをとらへたてまつりてなく〱みたてまつり給にまことにきえ
ゆく露のこゝちしてかきりにみえ給へはみす行のつかひともかすもしらすたち
ゆく露のこゝちしてかきりにみえ給へはみす行のつかひともかすもしらすたち
さはきたりさき〱もかくていきいて給おりにならひ給て御物のけとうたかひ
さはきたりさき〱もかくていきいて給おりにならひ給て御物のけとうたかひ
給ひてよひとよさま〱の事をしつくさせ給へとかひもなくあけはつるほとに
給ひてよひとよさま〱の事をしつくさせ給へとかひもなくあけはつるほとに
きえはて給ひぬ宮もかへり給はてかくてみたてまつり給へるをかきりなくおほ
きえはて給ひぬ宮もかへり給はてかくてみたてまつり給へるをかきりなくおほ
すたれも〱ことはりのわかれにてたくひあることゝもおほされすめつらかに
すたれも〱ことはりのわかれにてたくひあることゝもおほされすめつらかに
いみしくあけくれのゆめにまとひ給ほとさらなりやさかしきひとおはせさりけ
いみしくあけくれのゆめにまとひ給ほとさらなりやさかしきひとおはせさりけ
りさふらふ女ほうなともあるかきりさらにものおほえたるなし院はましておほ
りさふらふ女ほうなともあるかきりさらにものおほえたるなし院はましておほ
ししつめんかたなけれは大将の君ちかくまいり給へるを御木丁の本によひよせ
ししつめんかたなけれは大将の君ちかくまいり給へるを御木丁の本によひよせ
たてまつり給てかくいまはかきりのさまなめるをとしころのほいありて思ひつ
たてまつり給てかくいまはかきりのさまなめるをとしころのほいありて思ひつ
ることかゝるきさみにそのおもひたかへてやみなんかいと〱おしき御かちに
ることかゝるきさみにそのおもひたかへてやみなんかいと〱おしき御かちに
さふらふ大とこたちと経のそうなともみなこゑやめていてぬなるをさりともた
さふらふ大とこたちと経のそうなともみなこゑやめていてぬなるをさりともた
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ちとまりて物すへきもあらむこの世にはむなしき心ちするを仏の御しるしいま
ちとまりて物すへきもあらむこの世にはむなしき心ちするを仏の御しるしいま
はかのくらきみちのとふらひにたにたのみ申へきをかしらおろすへきよしもの
はかのくらきみちのとふらひにたにたのみ申へきをかしらおろすへきよしもの
し給へさるへきそうたれかとまりたるなとの給御けしき心つよくおほしなすへ
し給へさるへきそうたれかとまりたるなとの給御けしき心つよくおほしなすへ
かめれと御かほの色もあらぬさまにいみしくたへかね御涙のとまらぬをことは
かめれと御かほの色もあらぬさまにいみしくたへかね御涙のとまらぬをことは
りにかなしくみたてまつり給御ものゝけなとのこれも人の御心みたらんとてか
りにかなしくみたてまつり給御ものゝけなとのこれも人の御心みたらんとてか
くのみ物はゝへめるをさもやおはしますらんさらはとてもかくても御ほいのこ
くのみ物はゝへめるをさもやおはしますらんさらはとてもかくても御ほいのこ
とはよろしきことにはへなり一日一やいむことのしるしこそはむなしからすは
とはよろしきことにはへなり一日一やいむことのしるしこそはむなしからすは
侍なれまことにいふかひなくなりはてさせ給て後の御くしはかりをやつさせ給
侍なれまことにいふかひなくなりはてさせ給て後の御くしはかりをやつさせ給
てもことなるかのよの御ひかりともならせ給はさらん物からめのまへのかなし
てもことなるかのよの御ひかりともならせ給はさらん物からめのまへのかなし
ひのみまさるやうにていかゝはへるへからむと申給て御いみにこもり候へきこ
ひのみまさるやうにていかゝはへるへからむと申給て御いみにこもり候へきこ
ゝろさしありてまかてぬそうその人かのひとなとめしてさるへきことゝもこの
ゝろさしありてまかてぬそうその人かのひとなとめしてさるへきことゝもこの
君そをこなひ給としころなにやかやとおほけなき心はなかりしかといかならん
君そをこなひ給としころなにやかやとおほけなき心はなかりしかといかならん
よにありしはかりもみたてまつらんほのかにも御こゑをたにきかぬことなと心
よにありしはかりもみたてまつらんほのかにも御こゑをたにきかぬことなと心
にもはなれす思わたりつるものをこゑはつゐにきかせ給はすなりぬるにこそは
にもはなれす思わたりつるものをこゑはつゐにきかせ給はすなりぬるにこそは
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あめれむなしき御からにてもいまひとたひみたてまつらんの心さしかなふへき
あめれむなしき御からにてもいまひとたひみたてまつらんの心さしかなふへき
おりはたゝいまよりほかにいかてかあらむと思ふにつゝみもあへすなかれて女
おりはたゝいまよりほかにいかてかあらむと思ふにつゝみもあへすなかれて女
はうのあるかきりさはきまとふをあなかましはしとしつめかほにて御木丁のか
はうのあるかきりさはきまとふをあなかましはしとしつめかほにて御木丁のか
たひらをものゝ給まきれにひきあけてみ給へはほの〱とあけゆくひかりもお
たひらをものゝ給まきれにひきあけてみ給へはほの〱とあけゆくひかりもお
ほつかなけれはおほとなあふらをちかくかゝけてみたてまつり給にあかすうつ
ほつかなけれはおほとなあふらをちかくかゝけてみたてまつり給にあかすうつ
くしけにめてたうきよらにみゆる御かほのあたらしさにこの君のかくのそき給
くしけにめてたうきよらにみゆる御かほのあたらしさにこの君のかくのそき給
をみる〱もあなかちにかくさんの御心もおほされぬなめりかくなに事もまた
をみる〱もあなかちにかくさんの御心もおほされぬなめりかくなに事もまた
かはらぬけしきなからかきりのさまはしるかりけるこそとて御袖をかほにおし
かはらぬけしきなからかきりのさまはしるかりけるこそとて御袖をかほにおし
あて給へるほと大将の君もなみたにくれてめもみえ給はぬをしゐてしほりあけ
あて給へるほと大将の君もなみたにくれてめもみえ給はぬをしゐてしほりあけ
てみたてまつるに中〱あかすかなしきことたくひなきにまことに心まとひも
てみたてまつるに中〱あかすかなしきことたくひなきにまことに心まとひも
しぬへし御くしのたゝうちやられ給へるほとこちたくけうらにて露はかりみた
しぬへし御くしのたゝうちやられ給へるほとこちたくけうらにて露はかりみた
れたるけしきもなうつや〱とうつくしけなるさまそかきりなきひのいとあか
れたるけしきもなうつや〱とうつくしけなるさまそかきりなきひのいとあか
きに御色はいとしろくひかるやうにてとかくうちまきらはすことありしうつゝ
きに御色はいとしろくひかるやうにてとかくうちまきらはすことありしうつゝ
の御もてなしよりもいふかひなきさまにてなに心なくてふしたまへる御ありさ
の御もてなしよりもいふかひなきさまにてなに心なくてふしたまへる御ありさ
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まのあかぬ所なしといはんもさらなりやなのめにたにあらすたくひなきをみた
まのあかぬ所なしといはんもさらなりやなのめにたにあらすたくひなきをみた
てまつるにしにいるたましゐのやかてこの御からにとまらなむとおもほゆるも
てまつるにしにいるたましゐのやかてこの御からにとまらなむとおもほゆるも
わりなきことなりやつかうまつりなれたる女はうなとのものおほゆるもなけれ
わりなきことなりやつかうまつりなれたる女はうなとのものおほゆるもなけれ
は院そなにこともおほしわかれすおほさるゝ御心ちをあなかちにしつめ給てか
は院そなにこともおほしわかれすおほさるゝ御心ちをあなかちにしつめ給てか
きりの御ことゝもし給いにしへもかなしとおほすこともあまたみ給し御身なれ
きりの御ことゝもし給いにしへもかなしとおほすこともあまたみ給し御身なれ
といとかうおりたちてはまたしり給はさりけることをすへてきしかたゆくさき
といとかうおりたちてはまたしり給はさりけることをすへてきしかたゆくさき
たくひなき心ちし給やかてそのひとかくおさめたてまつるかきりありけること
たくひなき心ちし給やかてそのひとかくおさめたてまつるかきりありけること
なれはからをみつゝもえすくし給ましかりけるそ心うき世中なりけるはる〱
なれはからをみつゝもえすくし給ましかりけるそ心うき世中なりけるはる〱
とひろきのゝ所もなくたちこみてかきりなくいかめしきさほうなれといとはか
とひろきのゝ所もなくたちこみてかきりなくいかめしきさほうなれといとはか
なきけふりにてはかなくのほり給ぬるもれいのことなれとあえなくいみし空を
なきけふりにてはかなくのほり給ぬるもれいのことなれとあえなくいみし空を
あゆむ心ちして人にかゝりてそおはしましけるをみたてまつる人もさはかりい
あゆむ心ちして人にかゝりてそおはしましけるをみたてまつる人もさはかりい
つかしき御身をとものゝ心しらぬけすさへなかぬなかりけり御をくりの女はう
つかしき御身をとものゝ心しらぬけすさへなかぬなかりけり御をくりの女はう
はまして夢ちにまとふ心ちして車よりもまろひおちぬへきをそもてあつかひけ
はまして夢ちにまとふ心ちして車よりもまろひおちぬへきをそもてあつかひけ
るむかし大将の君の御はゝ君うせ給へりし時のあかつきを思いつるにもかれは
るむかし大将の君の御はゝ君うせ給へりし時のあかつきを思いつるにもかれは
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猶ものゝおほえけるにや月のかほのあきらかにおほえしをこよひはたゝくれま
猶ものゝおほえけるにや月のかほのあきらかにおほえしをこよひはたゝくれま
とひたまへり十四日にうせ給てこれは十五日のあか月なりけり日はいとはなや
とひたまへり十四日にうせ給てこれは十五日のあか月なりけり日はいとはなや
かにさしあかりてのへのつゆもかくれたるくまなくて世中おほしつゝくるにい
かにさしあかりてのへのつゆもかくれたるくまなくて世中おほしつゝくるにい
とゝいとはしくいみしけれはをくるとてもいくよかはふへきかゝるかなしさの
とゝいとはしくいみしけれはをくるとてもいくよかはふへきかゝるかなしさの
まきれにむかしよりの御ほいもとけてまほしくおもほせと心よはきのちのそし
まきれにむかしよりの御ほいもとけてまほしくおもほせと心よはきのちのそし
りをおほせはこのほとをすくさんとし給にむねのせきあくるそたへかたかりけ
りをおほせはこのほとをすくさんとし給にむねのせきあくるそたへかたかりけ
る大将の君も御いみにこもり給ひてあからさまにもまかて給はすあけくれちか
る大将の君も御いみにこもり給ひてあからさまにもまかて給はすあけくれちか
くさふらひて心くるしくいみしき御けしきをことはりにかなしくみたてまつり
くさふらひて心くるしくいみしき御けしきをことはりにかなしくみたてまつり
給てよろつになくさめきこえ給風のわきたちてふく夕暮にむかしのことおほし
給てよろつになくさめきこえ給風のわきたちてふく夕暮にむかしのことおほし
いてゝほのかにみたてまつりしものをと恋しくおほえ給に又かきりのほとのゆ
いてゝほのかにみたてまつりしものをと恋しくおほえ給に又かきりのほとのゆ
めの心ちせしなと人しれす思つゝけ給にたへかたくかなしけれは人めにはさし
めの心ちせしなと人しれす思つゝけ給にたへかたくかなしけれは人めにはさし
もみえしとつゝみてあみた仏〱とひき給すゝのかすにまきらはしてそなみた
もみえしとつゝみてあみた仏〱とひき給すゝのかすにまきらはしてそなみた
のたまをはもちけち給ひける
のたまをはもちけち給ひける
いにしへの秋の夕の恋しきにいまはとみえしあけくれの夢そなこりさへう
いにしへの秋の夕の恋しきにいまはとみえしあけくれの夢そなこりさへう
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かりけるやむことなきそうともさふらはせ給てさたまりたるねん仏をはさるも
かりけるやむことなきそうともさふらはせ給てさたまりたるねん仏をはさるも
のにてほ花経なとすせさせ給かた〱いとあはれなりふしてもおきても涙のひ
のにてほ花経なとすせさせ給かた〱いとあはれなりふしてもおきても涙のひ
るよなくきりふたかりてあかしくらし給いにしへより御身のありさまおほしつ
るよなくきりふたかりてあかしくらし給いにしへより御身のありさまおほしつ
ゝくるにかゝみにみゆるかけをはしめて人にはこと也けるみなからいはけなき
ゝくるにかゝみにみゆるかけをはしめて人にはこと也けるみなからいはけなき
ほとよりかなしくつねなきよを思しるへく仏なとのすゝめ給ける身を心つよく
ほとよりかなしくつねなきよを思しるへく仏なとのすゝめ給ける身を心つよく
すくしてつゐにきしかた行さきもためしあらしとおほゆるかなしさをみつるか
すくしてつゐにきしかた行さきもためしあらしとおほゆるかなしさをみつるか
ないまはこの世にうしろめたきことのこらすなりぬひたみちにをこなひにおも
ないまはこの世にうしろめたきことのこらすなりぬひたみちにをこなひにおも
むきなんにさはり所あるましきをいとかくおさめんかたなき心まとひにてはね
むきなんにさはり所あるましきをいとかくおさめんかたなき心まとひにてはね
かはんみちにもいりかたくやとやゝましきをこの思すこしなのめにわすれさせ
かはんみちにもいりかたくやとやゝましきをこの思すこしなのめにわすれさせ
給へとあみた仏をねんしたてまつり給所〱の御とふらひうちをはしめたてま
給へとあみた仏をねんしたてまつり給所〱の御とふらひうちをはしめたてま
つりてれいのさほう許にはあらすいとしけくきこえ給おほしめしたる心のほと
つりてれいのさほう許にはあらすいとしけくきこえ給おほしめしたる心のほと
にはさらになに事もめにもみゝにもとまらす心にかゝり給ことあるましけれと
にはさらになに事もめにもみゝにもとまらす心にかゝり給ことあるましけれと
人にほけほけしきさまにみえしいまさらに我よのすゑにかたくなしく心よはき
人にほけほけしきさまにみえしいまさらに我よのすゑにかたくなしく心よはき
まとひにて世中をなんそむきにけるとなかれとゝまらんなをおほしつゝむにな
まとひにて世中をなんそむきにけるとなかれとゝまらんなをおほしつゝむにな
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ん身を心にまかせぬなけきをさへうちそへ給ひけるちしのおとゝあはれをもお
ん身を心にまかせぬなけきをさへうちそへ給ひけるちしのおとゝあはれをもお
りすくし給ぬ御心にてかくよにたくひなくものし給人のはかなくうせ給ぬるこ
りすくし給ぬ御心にてかくよにたくひなくものし給人のはかなくうせ給ぬるこ
とをくちおしくあはれにおほしていとしは〱とひきこえ給むかし大将の御は
とをくちおしくあはれにおほしていとしは〱とひきこえ給むかし大将の御は
ゝうせ給へりしもこの比のことそかしとおほしいつるにいと物かなしくそのお
ゝうせ給へりしもこの比のことそかしとおほしいつるにいと物かなしくそのお
りかの御身をおしみきこえ給し人のおほくもうせ給にけるかなをくれさきたつ
りかの御身をおしみきこえ給し人のおほくもうせ給にけるかなをくれさきたつ
ほとなき世なりけりやなとしめやかなる夕くれになかめ給ふ空のけしきもたゝ
ほとなき世なりけりやなとしめやかなる夕くれになかめ給ふ空のけしきもたゝ
ならねは御このくら人の少将してたてまつり給あはれなることなとこまやかに
ならねは御このくら人の少将してたてまつり給あはれなることなとこまやかに
きこえ給てはしに
きこえ給てはしに
いにしへの秋さへいまの心ちしてぬれにし袖に露そをきそふ御返し
いにしへの秋さへいまの心ちしてぬれにし袖に露そをきそふ御返し
露けさはむかしいまともおもほえす大方秋の夜こそつらけれものゝみかな
露けさはむかしいまともおもほえす大方秋の夜こそつらけれものゝみかな
しき御心のまゝならはまちとり給ては心よはくもとめとゝめ給つへきおとゝの
しき御心のまゝならはまちとり給ては心よはくもとめとゝめ給つへきおとゝの
御心さまなれはめやすきほとにとたひ〱のなをさりならぬ御とふらひのかさ
御心さまなれはめやすきほとにとたひ〱のなをさりならぬ御とふらひのかさ
なりぬることゝよろこひきこえ給うすゝみとのたまひしよりはいますこしこま
なりぬることゝよろこひきこえ給うすゝみとのたまひしよりはいますこしこま
やかにてたてまつれり世中にさいはいありめてたき人もあひなうおほかたのよ
やかにてたてまつれり世中にさいはいありめてたき人もあひなうおほかたのよ
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にそねまれよきにつけても心のかきりをこりて人のためくるしき人もあるをあ
にそねまれよきにつけても心のかきりをこりて人のためくるしき人もあるをあ
やしきまてすゝろなる人にもうけられはかなくしいて給こともなに事につけて
やしきまてすゝろなる人にもうけられはかなくしいて給こともなに事につけて
も世にほめられ心にくゝおりふしにつけつゝらう〱しくありかたかりし人の
も世にほめられ心にくゝおりふしにつけつゝらう〱しくありかたかりし人の
御心はへなりかしさしもあるましきおほよその人さへそのころは風のをとむし
御心はへなりかしさしもあるましきおほよその人さへそのころは風のをとむし
のこゑにつけつゝ涙おとさぬはなしましてほのかにもみたてまつりし人の思な
のこゑにつけつゝ涙おとさぬはなしましてほのかにもみたてまつりし人の思な
くさむへき世なしとしころむつましくつかまつりなれつる人〱しはしものこ
くさむへき世なしとしころむつましくつかまつりなれつる人〱しはしものこ
れるいのちうらめしきことをなけきつゝあまに也このよのほかの山すみなとに
れるいのちうらめしきことをなけきつゝあまに也このよのほかの山すみなとに
思たつもありけりれいせん院のきさいの宮よりもあはれなる御せうそこたえす
思たつもありけりれいせん院のきさいの宮よりもあはれなる御せうそこたえす
つきせぬことゝもきこえ給ひて
つきせぬことゝもきこえ給ひて
かれはつるのへをうしとやなき人の秋に心をとゝめさりけんいまなんこと
かれはつるのへをうしとやなき人の秋に心をとゝめさりけんいまなんこと
はりしられ侍ぬるとありけるをものおほえぬ御心にもうちかへしをきかたくみ
はりしられ侍ぬるとありけるをものおほえぬ御心にもうちかへしをきかたくみ
給ふいふかひありおかしからむかたのなくさめにはこの宮はかりこそおはしけ
給ふいふかひありおかしからむかたのなくさめにはこの宮はかりこそおはしけ
れといさゝかの物まきるゝやうにおほしつゝくるにもなみたのこほるゝを袖の
れといさゝかの物まきるゝやうにおほしつゝくるにもなみたのこほるゝを袖の
いとまなくえかきやりたまはす
いとまなくえかきやりたまはす
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のほりにし雲井なからもかへりみよ我秋はてぬつねならぬよにおしつゝみ
のほりにし雲井なからもかへりみよ我秋はてぬつねならぬよにおしつゝみ
給ひてもとはかりうちなかめておはすすくよかにもおほされすわれなからこと
給ひてもとはかりうちなかめておはすすくよかにもおほされすわれなからこと
のほかにほれ〱しくおほししらるゝことおほかるまきらはしに女かたにそお
のほかにほれ〱しくおほししらるゝことおほかるまきらはしに女かたにそお
はします仏の御まへに人しけからすもてなしてのとやかにをこなひ給ちとせを
はします仏の御まへに人しけからすもてなしてのとやかにをこなひ給ちとせを
ももろともにとおほししかとかきりあるわかれそいとくちおしきわさなりける
ももろともにとおほししかとかきりあるわかれそいとくちおしきわさなりける
いまははちすの露もこと〱にまきるましくのちのよをとひたみちにおほした
いまははちすの露もこと〱にまきるましくのちのよをとひたみちにおほした
つことたゆみなしされと人きゝをはゝかり給なんあちきなかりける御わさの事
つことたゆみなしされと人きゝをはゝかり給なんあちきなかりける御わさの事
ともはか〱しくの給をきつることゝもなかりけれは大将の君なむとりもちて
ともはか〱しくの給をきつることゝもなかりけれは大将の君なむとりもちて
つかうまつり給けるけふやとのみわか身も心つかひせられ給おりおほかるをは
つかうまつり給けるけふやとのみわか身も心つかひせられ給おりおほかるをは
かなくてつもりにけるも夢の心ちのみす中宮なともおほしわするゝときのまな
かなくてつもりにけるも夢の心ちのみす中宮なともおほしわするゝときのまな
くこひきこえたまふ
くこひきこえたまふ