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校異源氏物語・すゝむし
池田亀鑑
Transcription
Misa Nakamura
Transcription
Michi Kigoshi
Transcription
Takashi Tamura
TEI Encoding
Satoru Nakamura
Advisor
Kiyonori Nagasaki
デジタル源氏物語
2020年08月22日
CC0 1.0 Universal (CC0 1.0) Public Domain Dedication
池田亀鑑
校異源氏物語
中央公論社
旧字は
史料編纂所データベース異体字同定一覧
を用いて新字に変換した。
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夏ころはちすの花のさかりに入道のひめ宮の御ち仏ともあらはし給へるくやう
夏ころはちすの花のさかりに入道のひめ宮の御ち仏ともあらはし給へるくやう
せさせ給このたひはおとゝの君の御心さしにて御ねんすたうのくともこまかに
せさせ給このたひはおとゝの君の御心さしにて御ねんすたうのくともこまかに
とゝのへさせ給へるをやかてしつらはせ給ふはたのさまなとなつかしう心こと
とゝのへさせ給へるをやかてしつらはせ給ふはたのさまなとなつかしう心こと
なるからのにしきをえらひぬはせ給へりむらさきのうへそいそきせさせ給ひけ
なるからのにしきをえらひぬはせ給へりむらさきのうへそいそきせさせ給ひけ
るはなつくゑのおほひなとのおかしきめそめもなつかしうきよらなるにほひそ
るはなつくゑのおほひなとのおかしきめそめもなつかしうきよらなるにほひそ
めつけられたる心はへめなれぬさまなりよるのみ丁のかたひらをよおもてなか
めつけられたる心はへめなれぬさまなりよるのみ丁のかたひらをよおもてなか
らあけてうしろのかたにほ花のまたらかけ奉りてしろかねのはなかめにたかく
らあけてうしろのかたにほ花のまたらかけ奉りてしろかねのはなかめにたかく
こと〱しきはなの色をとゝのへて奉り名かうにからの百部のくのえかうをた
こと〱しきはなの色をとゝのへて奉り名かうにからの百部のくのえかうをた
き給へり阿弥陀仏けうしのほさちをの〱白たんしてつくり奉りたるこまかに
き給へり阿弥陀仏けうしのほさちをの〱白たんしてつくり奉りたるこまかに
うつくしけなりあかのくはれいのきはやかにちいさくてあをきしろきむらさき
うつくしけなりあかのくはれいのきはやかにちいさくてあをきしろきむらさき
の蓮をとゝのへてかえうのほうをあはせたる名かうみちをかくしほゝろけてた
の蓮をとゝのへてかえうのほうをあはせたる名かうみちをかくしほゝろけてた
きにほはしたるひとつかをりにゝほひあひていとなつかし経は六道の衆生のた
きにほはしたるひとつかをりにゝほひあひていとなつかし経は六道の衆生のた
めに六部かゝせ給てみつからの御持経は院そ御てつからかゝせ給ける是をたに
めに六部かゝせ給てみつからの御持経は院そ御てつからかゝせ給ける是をたに
この世のけちえにてかたみにみちひきかはし給ふへき心を願文につくらせ給へ
この世のけちえにてかたみにみちひきかはし給ふへき心を願文につくらせ給へ
Page 1292
りさてはあみた経からのかみはもろくてあさゆふの御てならしにもいかゝとて
りさてはあみた経からのかみはもろくてあさゆふの御てならしにもいかゝとて
かむやの人をめしてことにおほせこと給てこゝろことにきよらにすかせ給へる
かむやの人をめしてことにおほせこと給てこゝろことにきよらにすかせ給へる
に此春のころをひより御心とゝめていそきかゝせ給へるかひありてはしをみ給
に此春のころをひより御心とゝめていそきかゝせ給へるかひありてはしをみ給
人〱めもかゝやきまとひ給けかけたるかねのすちよりもすみつきのうへにか
人〱めもかゝやきまとひ給けかけたるかねのすちよりもすみつきのうへにか
ゝやくさまなともいとなむめつらかなりけるちくへうしはこのさまなといへは
ゝやくさまなともいとなむめつらかなりけるちくへうしはこのさまなといへは
さらなりかしこれはことにちんの花そくのつくゑにすへて仏の御おなしちやう
さらなりかしこれはことにちんの花そくのつくゑにすへて仏の御おなしちやう
たいのうへにかさらせ給へりたうかさりはてゝかうしまうのほり行かうの人
たいのうへにかさらせ給へりたうかさりはてゝかうしまうのほり行かうの人
〱まいりつとひ給へは院もあなたにいて給ふとて宮のおはしますにしのひさ
〱まいりつとひ給へは院もあなたにいて給ふとて宮のおはしますにしのひさ
しにのそき給へれはせはき心ちするかりの御しつらひにところせくあつけなる
しにのそき給へれはせはき心ちするかりの御しつらひにところせくあつけなる
まてこと〱しくさうそきたる女房五六十人はかりつとひたり北のひさしのす
まてこと〱しくさうそきたる女房五六十人はかりつとひたり北のひさしのす
のこまてわらはへなとはさまよふひとりともあまたしてけふたきまてあふきち
のこまてわらはへなとはさまよふひとりともあまたしてけふたきまてあふきち
らせはさしより給て空にたくはいつくのけふりそと思ひはかれぬこそよけれふ
らせはさしより給て空にたくはいつくのけふりそと思ひはかれぬこそよけれふ
しのみねよりもけにくゆりみちいてたるはほいなきわさなりかうせちのおりは
しのみねよりもけにくゆりみちいてたるはほいなきわさなりかうせちのおりは
おほかたのなりをしつめてのとかに物の心もきゝわくへきことなれはゝはかり
おほかたのなりをしつめてのとかに物の心もきゝわくへきことなれはゝはかり
Page 1293
なききぬのをとなひ人のけはひしつめてなんよかるへきなとれいのものふかゝ
なききぬのをとなひ人のけはひしつめてなんよかるへきなとれいのものふかゝ
らぬわか人とものよういをしへ給宮は人けにおされ給ていとちいさくおかしけ
らぬわか人とものよういをしへ給宮は人けにおされ給ていとちいさくおかしけ
にてひれふし給へりわかきみらうかはしからむいたきかくしたてまつれなとの
にてひれふし給へりわかきみらうかはしからむいたきかくしたてまつれなとの
給きたのみさうしもとりはなちてみすかけたりそなたに人〱はいれ給しつめ
給きたのみさうしもとりはなちてみすかけたりそなたに人〱はいれ給しつめ
て宮にも物の心しり給へきしたかたをきこえしらせ給ふいとあはれにみゆおま
て宮にも物の心しり給へきしたかたをきこえしらせ給ふいとあはれにみゆおま
しをゆつり給へる仏の御しつらひみやり給もさま〱にかゝるかたの御いとな
しをゆつり給へる仏の御しつらひみやり給もさま〱にかゝるかたの御いとな
みをもゝろともにいそかんものとは思ひよらさりしことなりよしのちの世にた
みをもゝろともにいそかんものとは思ひよらさりしことなりよしのちの世にた
にかのはなの中のやとりにへたてなくとをおもほせとてうちなき給ひぬ
にかのはなの中のやとりにへたてなくとをおもほせとてうちなき給ひぬ
はちす葉をおなしうてなと契をきて露のわかるゝけふそかなしきと御すゝ
はちす葉をおなしうてなと契をきて露のわかるゝけふそかなしきと御すゝ
りにさしぬらしてかうそめなる御あふきにかきつけ給へり宮
りにさしぬらしてかうそめなる御あふきにかきつけ給へり宮
へたてなくはちすのやとをちきりても君か心やすましとすらむとかき給へ
へたてなくはちすのやとをちきりても君か心やすましとすらむとかき給へ
れはいふかひなくもおもほしくたすかなとうちはらひなからなをあはれと物を
れはいふかひなくもおもほしくたすかなとうちはらひなからなをあはれと物を
おもほしたる御気色なりれいのみこたちなともいとあまたまいり給へり御かた
おもほしたる御気色なりれいのみこたちなともいとあまたまいり給へり御かた
〱よりわれも〱といとなみいてたまへるほうもちの有様心ことにところせ
〱よりわれも〱といとなみいてたまへるほうもちの有様心ことにところせ
Page 1294
きまてみゆ七そうのほうふくなとすへて大かたのことゝもはみなむらさきのう
きまてみゆ七そうのほうふくなとすへて大かたのことゝもはみなむらさきのう
へせさせ給へりあやのよそひにてけさのぬいめまてみしる人は世になへてなら
へせさせ給へりあやのよそひにてけさのぬいめまてみしる人は世になへてなら
すとめてけりとやむつかしうこまかなることゝもかなかうしのいとたうとくこ
すとめてけりとやむつかしうこまかなることゝもかなかうしのいとたうとくこ
との心を申てこのよにすくれ給へるさかりをいとひはなれ給てなかきよゝにた
との心を申てこのよにすくれ給へるさかりをいとひはなれ給てなかきよゝにた
ゆましき御ちきりをほけ経にむすひ給ふたうとくふかきさまをあらはしてたゝ
ゆましき御ちきりをほけ経にむすひ給ふたうとくふかきさまをあらはしてたゝ
いまのよのさえもすくれゆたけきさきらをいとゝ心していひつゝけたるいとた
いまのよのさえもすくれゆたけきさきらをいとゝ心していひつゝけたるいとた
うとけれはみな人しほたれ給ふこれはたゝしのひて御ねんすたうのはしめとお
うとけれはみな人しほたれ給ふこれはたゝしのひて御ねんすたうのはしめとお
ほしたることなれとうちにも山のみかともきこしめしてみな御つかひともあり
ほしたることなれとうちにも山のみかともきこしめしてみな御つかひともあり
御す経のふせなといとゝころせきまてにはかになむことひろこりける院にまう
御す経のふせなといとゝころせきまてにはかになむことひろこりける院にまう
けさせ給へりけることゝもゝそくとおほしゝかとよのつねならさりけるをまい
けさせ給へりけることゝもゝそくとおほしゝかとよのつねならさりけるをまい
ていまめかしきことゝものくはゝりたれはゆふへのてらにをき所なけなるまて
ていまめかしきことゝものくはゝりたれはゆふへのてらにをき所なけなるまて
所せきいきをひになりてなん僧ともは帰けるいましも心くるしき御心そひては
所せきいきをひになりてなん僧ともは帰けるいましも心くるしき御心そひては
かりもなくかしつきゝこえ給ふ院のみかとはこの御そうふんの宮にすみはなれ
かりもなくかしつきゝこえ給ふ院のみかとはこの御そうふんの宮にすみはなれ
給なんもつゐのことにてめやすかりぬへくきこえ給へとよそ〱にてはおほつ
給なんもつゐのことにてめやすかりぬへくきこえ給へとよそ〱にてはおほつ
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かなかるへしあけくれみ奉りきこえうけ給はらむことをこたらむにほいたかひ
かなかるへしあけくれみ奉りきこえうけ給はらむことをこたらむにほいたかひ
ぬへしけにありはてぬ世いくはくあるましけれとなをいけるかきりの心さしを
ぬへしけにありはてぬ世いくはくあるましけれとなをいけるかきりの心さしを
たにうしなひはてしときこえ給つゝこの宮をもいとこまかにきよらにつくらせ
たにうしなひはてしときこえ給つゝこの宮をもいとこまかにきよらにつくらせ
給ひみふのものともくに〱のみさうみまきなとより奉る物ともはか〱しき
給ひみふのものともくに〱のみさうみまきなとより奉る物ともはか〱しき
さまのはみなかの三条の宮のみくらにおさめさせ給又もたてそへさせ給てさま
さまのはみなかの三条の宮のみくらにおさめさせ給又もたてそへさせ給てさま
〱の御たから物とも院の御そうふんにかすもなくたまはり給へるなとあなた
〱の御たから物とも院の御そうふんにかすもなくたまはり給へるなとあなた
さまの物はみなかの宮にはこひわたしこまかにいかめしうしをかせ給あけくれ
さまの物はみなかの宮にはこひわたしこまかにいかめしうしをかせ給あけくれ
の御かしつきそこらの女房のことゝもかみしものはくゝみはをしなへて我御あ
の御かしつきそこらの女房のことゝもかみしものはくゝみはをしなへて我御あ
つかひにてなといそきつかうまつらせ給ける秋ころにしのわたとのゝまへ中の
つかひにてなといそきつかうまつらせ給ける秋ころにしのわたとのゝまへ中の
へいのひんかしのきはをおしなへてのにつくらせたまへりあかのたなゝとして
へいのひんかしのきはをおしなへてのにつくらせたまへりあかのたなゝとして
そのかたにしなさせ給へる御しつらひなといとなまめきたり御弟子にしたかひ
そのかたにしなさせ給へる御しつらひなといとなまめきたり御弟子にしたかひ
きこえたるあまとも御めのとふる人ともはさるものにてわかきさかりのもこゝ
きこえたるあまとも御めのとふる人ともはさるものにてわかきさかりのもこゝ
ろさたまりさるかたにて世をつくしつへきかきりはえりてなんなさせ給けるさ
ろさたまりさるかたにて世をつくしつへきかきりはえりてなんなさせ給けるさ
るきをいにはわれも〱ときしろひけれとおとゝの君きこしめしてあるましき
るきをいにはわれも〱ときしろひけれとおとゝの君きこしめしてあるましき
Page 1296
ことなり心ならぬ人すこしもましりぬれはかたへの人くるしうあは〱しきき
ことなり心ならぬ人すこしもましりぬれはかたへの人くるしうあは〱しきき
こえいてくるわさなりといさめ給て十よ人はかりのほとそかたちことにてはさ
こえいてくるわさなりといさめ給て十よ人はかりのほとそかたちことにてはさ
ふらふこのゝにむしともはなたせ給て風すこしすゝしくなりゆく夕暮にわたり
ふらふこのゝにむしともはなたせ給て風すこしすゝしくなりゆく夕暮にわたり
給つゝむしのねをきゝ給やうにてなをおもひはなれぬさまをきこえなやまし給
給つゝむしのねをきゝ給やうにてなをおもひはなれぬさまをきこえなやまし給
へはれいの御心はあるましきことにこそはあなれとひとへにむつかしきことに
へはれいの御心はあるましきことにこそはあなれとひとへにむつかしきことに
おもひきこえ給へり人めにこそかはることなくもてなし給ひしかうちにはうき
おもひきこえ給へり人めにこそかはることなくもてなし給ひしかうちにはうき
をしり給ふ気色しるくこよなうかはりにし御心をいかてみえたてまつらしの御
をしり給ふ気色しるくこよなうかはりにし御心をいかてみえたてまつらしの御
心にておほうは思ひなり給にし御よのそむきなれはいまはもてはなれて心やす
心にておほうは思ひなり給にし御よのそむきなれはいまはもてはなれて心やす
きになをかやうになときこえ給そくるしうて人はなれたらむ御すまひにもかな
きになをかやうになときこえ給そくるしうて人はなれたらむ御すまひにもかな
とおほしなれとおよすけてえさもしひ申給はす十五夜の夕暮にほとけの御まへ
とおほしなれとおよすけてえさもしひ申給はす十五夜の夕暮にほとけの御まへ
に宮おはしてはしちかうなかめ給ひつゝねんすし給わかきあま君たち二三人花
に宮おはしてはしちかうなかめ給ひつゝねんすし給わかきあま君たち二三人花
たてまつるとてならすあかつきのをと水のけはひなときこゆるさまかはりたる
たてまつるとてならすあかつきのをと水のけはひなときこゆるさまかはりたる
いとなみにそゝきあへるいとあはれなるにれいのわたり給てむしのねいとしけ
いとなみにそゝきあへるいとあはれなるにれいのわたり給てむしのねいとしけ
うみたるゝゆふへかなとてわれもしのひてうちすんし給ふ阿弥陀の大すいとた
うみたるゝゆふへかなとてわれもしのひてうちすんし給ふ阿弥陀の大すいとた
Page 1297
うとくほの〱きこゆけにこゑ〱きこゑたるなかに鈴虫のふりいてたるほと
うとくほの〱きこゆけにこゑ〱きこゑたるなかに鈴虫のふりいてたるほと
はなやかにおかし秋の虫のこゑいつれとなき中にまつ虫なんすくれたるとて中
はなやかにおかし秋の虫のこゑいつれとなき中にまつ虫なんすくれたるとて中
宮のはるけきのへをわけていとわさとたつねとりつゝはなたせ給へるしるくな
宮のはるけきのへをわけていとわさとたつねとりつゝはなたせ給へるしるくな
きつたふるこそすくなかなれなにはたかひていのちのほとはかなきむしにそあ
きつたふるこそすくなかなれなにはたかひていのちのほとはかなきむしにそあ
るへき心にまかせて人きかぬおく山はるけきのゝまつ原にこゑおしまぬもいと
るへき心にまかせて人きかぬおく山はるけきのゝまつ原にこゑおしまぬもいと
へたて心あるむしになんありける鈴虫は心やすくいまめいたるこそらうたけれ
へたて心あるむしになんありける鈴虫は心やすくいまめいたるこそらうたけれ
なとの給へは宮
なとの給へは宮
大かたの秋をはうしとしりにしをふりすてかたきすゝむしのこゑとしのひ
大かたの秋をはうしとしりにしをふりすてかたきすゝむしのこゑとしのひ
やかにの給ふいとなまめいてあてにおほとか也いかにとかやいておもひのほか
やかにの給ふいとなまめいてあてにおほとか也いかにとかやいておもひのほか
なる御ことにこそとて
なる御ことにこそとて
心もて草のやとりをいとへともなをすゝむしの声そふりせぬなと聞え給て
心もて草のやとりをいとへともなをすゝむしの声そふりせぬなと聞え給て
きんの御ことめしてめつらしくひきたまふ宮の御すゝひきをこたり給て御こと
きんの御ことめしてめつらしくひきたまふ宮の御すゝひきをこたり給て御こと
になをこゝろいれ給へり月さしいてゝいとはなやかなるほともあはれなるに空
になをこゝろいれ給へり月さしいてゝいとはなやかなるほともあはれなるに空
をうちなかめて世中さま〱につけてはかなくうつりかはるありさまもおほし
をうちなかめて世中さま〱につけてはかなくうつりかはるありさまもおほし
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つゝけられてれいよりもあはれなるねにかきならし給ふこよひはれいの御あそ
つゝけられてれいよりもあはれなるねにかきならし給ふこよひはれいの御あそ
ひにやあらむとおしはかりて兵部卿の宮はたり給へり大将のきみ殿上人のさる
ひにやあらむとおしはかりて兵部卿の宮はたり給へり大将のきみ殿上人のさる
へきなとくしてまいり給へれはこなたにおはしますと御ことのねをたつねてや
へきなとくしてまいり給へれはこなたにおはしますと御ことのねをたつねてや
かてまいり給いとつれ〱にてわさとあそひとはなくともひさしくたえにたる
かてまいり給いとつれ〱にてわさとあそひとはなくともひさしくたえにたる
めつらしき物のねなときかまほしかりつるひとりことをいとようたつね給ける
めつらしき物のねなときかまほしかりつるひとりことをいとようたつね給ける
とて宮もこなたにおましよそひていれたてまつり給うちの御まへにこよひは月
とて宮もこなたにおましよそひていれたてまつり給うちの御まへにこよひは月
のえんあるへかりつるをとまりてさう〱しかりつるにこの院に人〱まいり
のえんあるへかりつるをとまりてさう〱しかりつるにこの院に人〱まいり
給ときゝつたへてこれかれかんたちめなともまいり給へりむしのねのさためを
給ときゝつたへてこれかれかんたちめなともまいり給へりむしのねのさためを
し給ふ御ことゝものこゑ〱かきあはせておもしろきほとに月みるよひのいつ
し給ふ御ことゝものこゑ〱かきあはせておもしろきほとに月みるよひのいつ
とても物あはれならぬ折はなき中にこよひのあらたなる月の色にはけになをわ
とても物あはれならぬ折はなき中にこよひのあらたなる月の色にはけになをわ
か世のほかまてこそよろつ思なかさるれ故権大納言なにの折〱にもなきにつ
か世のほかまてこそよろつ思なかさるれ故権大納言なにの折〱にもなきにつ
けていとゝしのはるゝことおほくおほやけわたくし物の折ふしのにほひうせた
けていとゝしのはるゝことおほくおほやけわたくし物の折ふしのにほひうせた
る心ちこそすれ花とりの色にもねにも思ひはきまへいふかひあるかたのいとう
る心ちこそすれ花とりの色にもねにも思ひはきまへいふかひあるかたのいとう
るさかりし物をなとの給ひいてゝ身つからもかきあはせ給御ことのねにも袖ぬ
るさかりし物をなとの給ひいてゝ身つからもかきあはせ給御ことのねにも袖ぬ
Page 1299
らし給つみすのうちにもみゝとゝめてやきゝ給らんとかたつかたの御心にはお
らし給つみすのうちにもみゝとゝめてやきゝ給らんとかたつかたの御心にはお
ほしなからかゝる御あそひのほとにはまつこひしう内なとにもおほしいてける
ほしなからかゝる御あそひのほとにはまつこひしう内なとにもおほしいてける
こよひはすゝむしのえんにてあかしてんとおほしの給御かはらけふたはたりは
こよひはすゝむしのえんにてあかしてんとおほしの給御かはらけふたはたりは
かりまいるほとにれんせいゐんより御せうそこあり御せんの御あそひにはかに
かりまいるほとにれんせいゐんより御せうそこあり御せんの御あそひにはかに
とまりぬるをくちおしかりて左大弁式部大輔又人〱ひきゐてさるへきかきり
とまりぬるをくちおしかりて左大弁式部大輔又人〱ひきゐてさるへきかきり
まいりたれは大将なとは六条のゐんにさふらひ給ふときこしめしてなりけり
まいりたれは大将なとは六条のゐんにさふらひ給ふときこしめしてなりけり
雲のうへをかけはなれたるすみかにもゝのわすれせぬ秋の夜の月おなしく
雲のうへをかけはなれたるすみかにもゝのわすれせぬ秋の夜の月おなしく
はときこえ給へれはなにはかりところせきみのほとにもあらすなからいまはの
はときこえ給へれはなにはかりところせきみのほとにもあらすなからいまはの
とやかにおはしますにまいりなるゝこともおさ〱なきをほいなきことにおほ
とやかにおはしますにまいりなるゝこともおさ〱なきをほいなきことにおほ
しあまりておとろかさせ給へるかたしけなしとてにはかなるやうなれとまいり
しあまりておとろかさせ給へるかたしけなしとてにはかなるやうなれとまいり
給はんとす
給はんとす
月かけはおなし雲井にみえなからわかやとからの秋そかはれることなる事
月かけはおなし雲井にみえなからわかやとからの秋そかはれることなる事
なかめれとたゝむかしいまの御ありさまのおほしつゝけられけるまゝなめり御
なかめれとたゝむかしいまの御ありさまのおほしつゝけられけるまゝなめり御
つかひにさか月たまひてろくいとになし人〱の御車したいのまゝにひきなを
つかひにさか月たまひてろくいとになし人〱の御車したいのまゝにひきなを
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しこせんの人〱たちこみてしつかなりつる御あそひまきれていて給ぬ院の御
しこせんの人〱たちこみてしつかなりつる御あそひまきれていて給ぬ院の御
車にみこたてまつり大将左衛門の督とうさいしやうなとおはしけるかきりみな
車にみこたてまつり大将左衛門の督とうさいしやうなとおはしけるかきりみな
まいり給なをしにてかろらかなる御よそひともなれはしたかさねはかり奉りく
まいり給なをしにてかろらかなる御よそひともなれはしたかさねはかり奉りく
はへて月やゝさしあかりふけぬる空おもしろきにわかき人〱ふえなとわさと
はへて月やゝさしあかりふけぬる空おもしろきにわかき人〱ふえなとわさと
なくふかせ給なとしてしのひたる御まいりのさまなりうるはしかるへきおりふ
なくふかせ給なとしてしのひたる御まいりのさまなりうるはしかるへきおりふ
しはところせくよたけゝきゝしきをつくしてかたみに御らんせられ給ひ又いに
しはところせくよたけゝきゝしきをつくしてかたみに御らんせられ給ひ又いに
しへのたゝ人さまにおほしかへりてこよひはかる〱しきやうにふとかくまい
しへのたゝ人さまにおほしかへりてこよひはかる〱しきやうにふとかくまい
り給へれはいたうおとろきまちよろこひきこえ給ねひとゝのひ給へる御かたち
り給へれはいたうおとろきまちよろこひきこえ給ねひとゝのひ給へる御かたち
いよ〱ことものならすいみしき御さかりの世を御心とおほしすてゝしつかな
いよ〱ことものならすいみしき御さかりの世を御心とおほしすてゝしつかな
る御有様にあはれすくなからすその夜の歌ともからのも山とのも心はへふかう
る御有様にあはれすくなからすその夜の歌ともからのも山とのも心はへふかう
おもしろくのみなんれいのことたらぬかたはしはまねふもかたはらいたくてな
おもしろくのみなんれいのことたらぬかたはしはまねふもかたはらいたくてな
むあけかたにふみなとかうしてとく人〱まかて給六条の院は中宮の御方にわ
むあけかたにふみなとかうしてとく人〱まかて給六条の院は中宮の御方にわ
たり給て御物語なときこえ給ふいまはかうしつかなる御すまひにしは〱もま
たり給て御物語なときこえ給ふいまはかうしつかなる御すまひにしは〱もま
いりぬへくなにとはなけれとすくるよはひにそへてわすれぬむかしの御物語な
いりぬへくなにとはなけれとすくるよはひにそへてわすれぬむかしの御物語な
Page 1301
とうけ給はりきこえまほしうおもひたまふるになにゝもつかぬみのありさまに
とうけ給はりきこえまほしうおもひたまふるになにゝもつかぬみのありさまに
てさすかにうゐ〱しくところせくも侍てなんはれよりのちの人〱にかたか
てさすかにうゐ〱しくところせくも侍てなんはれよりのちの人〱にかたか
たにつけてをくれゆく心ちしはへるもいとつねなきよの心ほそさのゝとめかた
たにつけてをくれゆく心ちしはへるもいとつねなきよの心ほそさのゝとめかた
うおほえ侍れはよはなれたるすまひにもやとやう〱おもひたちぬるをのこり
うおほえ侍れはよはなれたるすまひにもやとやう〱おもひたちぬるをのこり
の人〱の物はかなからんたゝよはし給なとさき〱もきこえつけし心たかへ
の人〱の物はかなからんたゝよはし給なとさき〱もきこえつけし心たかへ
すおほしとゝめて物せさせ給へなとまめやかなるさまにきこえさせ給れいのい
すおほしとゝめて物せさせ給へなとまめやかなるさまにきこえさせ給れいのい
とわかうおほとかなる御けはひにてこゝのへのへたてふかう侍しとしころより
とわかうおほとかなる御けはひにてこゝのへのへたてふかう侍しとしころより
もおほつかなさのまさるやうにおもひ給へらるゝ有様をいとおもひのほかにむ
もおほつかなさのまさるやうにおもひ給へらるゝ有様をいとおもひのほかにむ
つかしうてみな人のそむきゆく世をいとはしうおもひなることも侍りなからそ
つかしうてみな人のそむきゆく世をいとはしうおもひなることも侍りなからそ
の心のうちをきこえさせうけたまはらねはなに事もまつたのもしきかけにはき
の心のうちをきこえさせうけたまはらねはなに事もまつたのもしきかけにはき
こえさせならひていふせく侍ときこえ給けにおほやけさまにてはかきりあるお
こえさせならひていふせく侍ときこえ給けにおほやけさまにてはかきりあるお
りふしの御さとゐもいとようまちつけきこえさせしをいまはなにことにつけて
りふしの御さとゐもいとようまちつけきこえさせしをいまはなにことにつけて
かは御心にまかせさせ給御うつろひも侍らむさためなきよといひなからもさし
かは御心にまかせさせ給御うつろひも侍らむさためなきよといひなからもさし
ていとはしきことなき人のさはやかにそむきはなるゝもありかたう心やすかる
ていとはしきことなき人のさはやかにそむきはなるゝもありかたう心やすかる
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へき程につけてたにをのつからおもひかゝつらふほたしのみ侍るをなとかその
へき程につけてたにをのつからおもひかゝつらふほたしのみ侍るをなとかその
人まねにきほふ御たうしんはかへりてひか〱しうおしはかりきこえさする人
人まねにきほふ御たうしんはかへりてひか〱しうおしはかりきこえさする人
もこそ侍れかけてもいとあるましき御ことになむときこえ給をふかうもくみは
もこそ侍れかけてもいとあるましき御ことになむときこえ給をふかうもくみは
かりたまはぬなめりかしとつらうおもひきこえ給ふ宮す所の御身のくるしうな
かりたまはぬなめりかしとつらうおもひきこえ給ふ宮す所の御身のくるしうな
り給らむありさまいかなるけふりの中にまとひ給らんなきかけにても人にうと
り給らむありさまいかなるけふりの中にまとひ給らんなきかけにても人にうと
まれたてまつり給御なのりなとのいてきけることかの院にはいみしうかくし給
まれたてまつり給御なのりなとのいてきけることかの院にはいみしうかくし給
ひけるをゝのつから人のくちさかなくてつたへきこしめしけるのちいとかなし
ひけるをゝのつから人のくちさかなくてつたへきこしめしけるのちいとかなし
ういみしくてなへての世のいとはしくおほしなりてかりにてもかのゝ給けん有
ういみしくてなへての世のいとはしくおほしなりてかりにてもかのゝ給けん有
様のくはしうきかまほしきをまをにはえうちいてきこえ給はてたゝなき人の御
様のくはしうきかまほしきをまをにはえうちいてきこえ給はてたゝなき人の御
有様のつみかろからぬさまにほのきくことの侍しをさるしるしあらはならても
有様のつみかろからぬさまにほのきくことの侍しをさるしるしあらはならても
おしはかりつたへつへきことに侍りけれとをくれしほとのあはれはかりをわす
おしはかりつたへつへきことに侍りけれとをくれしほとのあはれはかりをわす
れぬことにて物のあなたおもふ給へやらさりけるかものはかなさをいかてよう
れぬことにて物のあなたおもふ給へやらさりけるかものはかなさをいかてよう
いひきかせんひとのすゝめをもきゝ侍りて身つからたにかのほのほをもさまし
いひきかせんひとのすゝめをもきゝ侍りて身つからたにかのほのほをもさまし
侍りにしかなとやう〱つもるになむおもひしらるゝこともありけるなとかす
侍りにしかなとやう〱つもるになむおもひしらるゝこともありけるなとかす
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めつゝその給ふけにさもおほしぬへきことゝあはれにみ奉り給ふてそのほのを
めつゝその給ふけにさもおほしぬへきことゝあはれにみ奉り給ふてそのほのを
なむたれものかるましきことゝしりなからあしたの露のかゝれるほとは思ひす
なむたれものかるましきことゝしりなからあしたの露のかゝれるほとは思ひす
て侍らぬになむもくれんかほとけにちかきひしりの身にてたちまちにすくひけ
て侍らぬになむもくれんかほとけにちかきひしりの身にてたちまちにすくひけ
むためしにもえつかせ給はさらむ物からたまのかんさしすてさせ給はんもこの
むためしにもえつかせ給はさらむ物からたまのかんさしすてさせ給はんもこの
世にはうらみのこるやうなるわさなりやう〱さる御心さしをしめ給てかの御
世にはうらみのこるやうなるわさなりやう〱さる御心さしをしめ給てかの御
けふりはるへきことをせさせ給へしかおもひたまふること侍りなからものさは
けふりはるへきことをせさせ給へしかおもひたまふること侍りなからものさは
かしきやうにしつかなるほいもなきやうなる有様にあけくらし侍りつゝ身つか
かしきやうにしつかなるほいもなきやうなる有様にあけくらし侍りつゝ身つか
らのつとめにそへていましつかにとおもひ給ふるもけにこそ心をさなきことな
らのつとめにそへていましつかにとおもひ給ふるもけにこそ心をさなきことな
れなと世中なへてはかなくいとひすてまほしきことをきこえかはし給へとなを
れなと世中なへてはかなくいとひすてまほしきことをきこえかはし給へとなを
やつしにくき御身の有様ともなりよへはうちしのひてかやすかりし御ありきけ
やつしにくき御身の有様ともなりよへはうちしのひてかやすかりし御ありきけ
さはあらはれたまひて上達部ともまいり給へるかきりはみな御をくりつかうま
さはあらはれたまひて上達部ともまいり給へるかきりはみな御をくりつかうま
つり給ふ春宮の女御の御有様ならひなくいつきたて給へるかひ〱しさも大将
つり給ふ春宮の女御の御有様ならひなくいつきたて給へるかひ〱しさも大将
のまたいと人にことなる御様をもいつれとなくめやすしとおほすになをこのれ
のまたいと人にことなる御様をもいつれとなくめやすしとおほすになをこのれ
せいゐんを思ひきこえ給御心さしはすくれてふかく哀にそおほえ給院もつねに
せいゐんを思ひきこえ給御心さしはすくれてふかく哀にそおほえ給院もつねに
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いふかしう思ひきこえ給ひしに御たいめんのまれにいふせうのみおほされける
いふかしう思ひきこえ給ひしに御たいめんのまれにいふせうのみおほされける
にいそかされ給てかく心やすきさまにとおほしなりけるになん中宮そ中〱ま
にいそかされ給てかく心やすきさまにとおほしなりけるになん中宮そ中〱ま
かて給ふこともいとかたうなりてたゝひとの中のやうにならひおはしますにい
かて給ふこともいとかたうなりてたゝひとの中のやうにならひおはしますにい
まめかしうなか〱むかしよりもはなやかに御あそひをもし給ふなに事も御心
まめかしうなか〱むかしよりもはなやかに御あそひをもし給ふなに事も御心
やれる有様なからたゝかの宮す所の御ことをおほしやりつゝをこなひの御心す
やれる有様なからたゝかの宮す所の御ことをおほしやりつゝをこなひの御心す
ゝみにたるを人のゆるしきこえ給ましきことなれはくとくのことをたてゝおほ
ゝみにたるを人のゆるしきこえ給ましきことなれはくとくのことをたてゝおほ
しいとなみいとゝ心ふかう世中をおほしとれるさまになりまさりたまふ
しいとなみいとゝ心ふかう世中をおほしとれるさまになりまさりたまふ