校異源氏物語 powerd by Gatsby CETEIcean
校異源氏物語 powerd by Gatsby CETEIcean
Home
About
校異源氏物語・松かせ
池田亀鑑
Transcription
Misa Nakamura
Transcription
Michi Kigoshi
Transcription
Takashi Tamura
TEI Encoding
Satoru Nakamura
Advisor
Kiyonori Nagasaki
デジタル源氏物語
2020年08月22日
CC0 1.0 Universal (CC0 1.0) Public Domain Dedication
池田亀鑑
校異源氏物語
中央公論社
旧字は
史料編纂所データベース異体字同定一覧
を用いて新字に変換した。
Page 579
ひむかしの院つくりたてゝ花ちる里ときこえしうつろはし給ふにしのたゐわた
ひむかしの院つくりたてゝ花ちる里ときこえしうつろはし給ふにしのたゐわた
殿なとかけてまところけいしなとあるへきさまにしをかせ給ふひむかしのたい
殿なとかけてまところけいしなとあるへきさまにしをかせ給ふひむかしのたい
はあかしの御かたとおほしをきてたりきたのたいはことにひろくつくらせ給て
はあかしの御かたとおほしをきてたりきたのたいはことにひろくつくらせ給て
かりにてもあはれとおほしてゆくすゑかけて契たのめ給し人ゝつとひすむへき
かりにてもあはれとおほしてゆくすゑかけて契たのめ給し人ゝつとひすむへき
さまにへたて〱しつらはせ給へるしもなつかしうみところありてこまかなる
さまにへたて〱しつらはせ給へるしもなつかしうみところありてこまかなる
しむてんはふたけたまはす時〱わたり給ふ御すみ所にしてさるかたなる御し
しむてんはふたけたまはす時〱わたり給ふ御すみ所にしてさるかたなる御し
つらひともしをかせ給へりあかしには御せうそこたえすいまは猶のほり給ぬへ
つらひともしをかせ給へりあかしには御せうそこたえすいまは猶のほり給ぬへ
きことをはのたまへと女は猶わか身のほとを思ひしるにこよなくやむことなき
きことをはのたまへと女は猶わか身のほとを思ひしるにこよなくやむことなき
きはの人〱たに中〱さてかけはなれぬ御ありさまのつれなきをみつゝもの
きはの人〱たに中〱さてかけはなれぬ御ありさまのつれなきをみつゝもの
おもひまさりぬへくきくをましてなにはかりのおほえなりとてかさしいてまし
おもひまさりぬへくきくをましてなにはかりのおほえなりとてかさしいてまし
らはむこのわか君の御おもてふせにかすならぬ身のほとこそあらはれめたまさ
らはむこのわか君の御おもてふせにかすならぬ身のほとこそあらはれめたまさ
かにはひわたり給ふついてをまつ事にて人わらへにはしたなきこといかにあら
かにはひわたり給ふついてをまつ事にて人わらへにはしたなきこといかにあら
むと思ひみたれてもまたさりとてかゝる所におひいてかすまへられ給はさらむ
むと思ひみたれてもまたさりとてかゝる所におひいてかすまへられ給はさらむ
もいとあはれなれはひたすらにもえうらみそむかすおやたちもけにことはりと
もいとあはれなれはひたすらにもえうらみそむかすおやたちもけにことはりと
Page 580
思ひなけくに中〱心もつきはてぬむかしはゝきみの御をほちなかつかさの宮
思ひなけくに中〱心もつきはてぬむかしはゝきみの御をほちなかつかさの宮
ときこえけるからうし給けるところおほゐかはのわたりにありけるをその御の
ときこえけるからうし給けるところおほゐかはのわたりにありけるをその御の
ちはか〱しうあひつく人もなくてとしころあれまとふを思いてゝかのときよ
ちはか〱しうあひつく人もなくてとしころあれまとふを思いてゝかのときよ
りつたはりてやともりのやうにてある人をよひとりてかたらふ世中をいまはと
りつたはりてやともりのやうにてある人をよひとりてかたらふ世中をいまはと
思はてゝかゝるすまひにしつみそめしかともすゑのよに思かけぬこといてきて
思はてゝかゝるすまひにしつみそめしかともすゑのよに思かけぬこといてきて
なんさらにみやこのすみかもとむるをにはかにまはゆき人中いとはしたなくゐ
なんさらにみやこのすみかもとむるをにはかにまはゆき人中いとはしたなくゐ
中ひにける心ちもしつかなるましきをふるきところたつねてとなむ思よるさる
中ひにける心ちもしつかなるましきをふるきところたつねてとなむ思よるさる
へきものはあけはたさむすりなとしてかたのこと人すみぬへくはつくろひなさ
へきものはあけはたさむすりなとしてかたのこと人すみぬへくはつくろひなさ
れなむやといふあつかりこのとしころらうする人もものし給はすあやしきやう
れなむやといふあつかりこのとしころらうする人もものし給はすあやしきやう
になりてはへれはしもやにそつくろひてやとりはへるをこの春のころより内の
になりてはへれはしもやにそつくろひてやとりはへるをこの春のころより内の
大殿のつくらせ給ふ御たうちかくてかのわたりなむいとけさはかしうなりにて
大殿のつくらせ給ふ御たうちかくてかのわたりなむいとけさはかしうなりにて
はへるいかめしき御たうともたてゝおほくの人なむつくりいとなみはへるめる
はへるいかめしき御たうともたてゝおほくの人なむつくりいとなみはへるめる
しつかなる御ほいならはそれやたかひはへらむなにかそれもかのとのゝ御かけ
しつかなる御ほいならはそれやたかひはへらむなにかそれもかのとのゝ御かけ
にかたかけてと思ふことありてをのつからをい〱にうちのことゝもはしてむ
にかたかけてと思ふことありてをのつからをい〱にうちのことゝもはしてむ
Page 581
まついそきておほかたの事ともをものせよといふ身つからゝうするところには
まついそきておほかたの事ともをものせよといふ身つからゝうするところには
へらねとまたしりつたへたまふ人もなけれはかこかなるならひにてとしころか
へらねとまたしりつたへたまふ人もなけれはかこかなるならひにてとしころか
くろへ侍りつるなりみさうの田畠なといふことのいたつらにあれはへりしかは
くろへ侍りつるなりみさうの田畠なといふことのいたつらにあれはへりしかは
故民部大輔の君に申給はりてさるへきものなとたてまつりてなんらうしつくり
故民部大輔の君に申給はりてさるへきものなとたてまつりてなんらうしつくり
侍なとそのあたりのたくはへの事ともをあやふけに思ひてひけかちにつなしに
侍なとそのあたりのたくはへの事ともをあやふけに思ひてひけかちにつなしに
くきかほをはななとうちあかめつゝはちふきいへはさらにそのたなとやうの事
くきかほをはななとうちあかめつゝはちふきいへはさらにそのたなとやうの事
はこゝにしるましたゝ年ころのやうに思ひてものせよ券なとはこゝになむあれ
はこゝにしるましたゝ年ころのやうに思ひてものせよ券なとはこゝになむあれ
とすへて世中をすてたる身にてとしころともかくもたつねしらぬをその事もい
とすへて世中をすてたる身にてとしころともかくもたつねしらぬをその事もい
まくはしくしたゝめむなといふにも大とのゝけはひをかくれはわつらはしくて
まくはしくしたゝめむなといふにも大とのゝけはひをかくれはわつらはしくて
そのゝちものなとおほくうけとりてなんいそきつくりけるかやうに思ひよるら
そのゝちものなとおほくうけとりてなんいそきつくりけるかやうに思ひよるら
んともしり給はてのほらむことをものうかるも心えすおほしわか君のさてつく
んともしり給はてのほらむことをものうかるも心えすおほしわか君のさてつく
〱とものしたまふを後のよに人のいひつたへんいまひときは人わろきゝすに
〱とものしたまふを後のよに人のいひつたへんいまひときは人わろきゝすに
やとおもほすにつくりいてゝそしか〱のところをなむおもひいてたるときこ
やとおもほすにつくりいてゝそしか〱のところをなむおもひいてたるときこ
えさせける人にましらはむ事をくるしけにのみものするはかく思ふなりけりと
えさせける人にましらはむ事をくるしけにのみものするはかく思ふなりけりと
Page 582
心え給ふくちをしからぬ心のよういかなとおほしなりぬこれみつのあそむれい
心え給ふくちをしからぬ心のよういかなとおほしなりぬこれみつのあそむれい
のしのふるみちはいつとなくいろひつかうまつる人なれはつかはしてさるへき
のしのふるみちはいつとなくいろひつかうまつる人なれはつかはしてさるへき
さまにこゝかしこのようゐなとせさせ給ひけりあたりおかしうてうみつらにか
さまにこゝかしこのようゐなとせさせ給ひけりあたりおかしうてうみつらにか
よひたるところのさまになむはへりけるときこゆれはさやうのすまゐによしな
よひたるところのさまになむはへりけるときこゆれはさやうのすまゐによしな
からすはありぬへしとおほすつくらせ給ふ御たうは大かく寺のみなみにあたり
からすはありぬへしとおほすつくらせ給ふ御たうは大かく寺のみなみにあたり
てたきとのゝ心はへなとおとらすおもしろき寺也これはかはつらにえもいはぬ
てたきとのゝ心はへなとおとらすおもしろき寺也これはかはつらにえもいはぬ
まつかけになにのいたはりもなくたてたるしんてむのことそきたるさまもをの
まつかけになにのいたはりもなくたてたるしんてむのことそきたるさまもをの
つから山さとのあはれをみせたりうちのしつらひなとまておほしよるしたしき
つから山さとのあはれをみせたりうちのしつらひなとまておほしよるしたしき
人〱いみしうしのひてくたしつかはすのかれかたくていまはと思ふにとしへ
人〱いみしうしのひてくたしつかはすのかれかたくていまはと思ふにとしへ
つるうらをはなれなむことあはれに入道の心ほそくてひとりとまらんことを思
つるうらをはなれなむことあはれに入道の心ほそくてひとりとまらんことを思
ひみたれてよろすにかなしすへてなとかく心つくしになりはしめけむ身にかと
ひみたれてよろすにかなしすへてなとかく心つくしになりはしめけむ身にかと
露のかゝらぬたくひうらやましくおほゆおやたちもかゝる御むかへにてのほる
露のかゝらぬたくひうらやましくおほゆおやたちもかゝる御むかへにてのほる
さいわいはとしころねてもさめてもねかひわたりし心さしのかなふといとうれ
さいわいはとしころねてもさめてもねかひわたりし心さしのかなふといとうれ
しけれとあひみてすくさむいふせさのたへかたうかなしけれはよるひる思ほれ
しけれとあひみてすくさむいふせさのたへかたうかなしけれはよるひる思ほれ
Page 583
ておなしことをのみさらはわか君をはみたてまつらては侍へきかといふよりほ
ておなしことをのみさらはわか君をはみたてまつらては侍へきかといふよりほ
かの事なしはゝ君もいみしうあはれなりとしころたにおなしいほりにもすます
かの事なしはゝ君もいみしうあはれなりとしころたにおなしいほりにもすます
かけはなれつれはましてたれによりてかはかけとゝまらむたゝあたにうちみる
かけはなれつれはましてたれによりてかはかけとゝまらむたゝあたにうちみる
人のあさはかなるかたらひたにみなれそなれてわかるゝほとはたゝならさめる
人のあさはかなるかたらひたにみなれそなれてわかるゝほとはたゝならさめる
をましてもてひかめたるかしらつき心おきてこそたのもしけなけれとまたさる
をましてもてひかめたるかしらつき心おきてこそたのもしけなけれとまたさる
かたにこれこそはよをかきるへきすみかなれとありはてぬいのちをかきりに思
かたにこれこそはよをかきるへきすみかなれとありはてぬいのちをかきりに思
て契すくしきつるをにはかにゆきはなれなむも心ほそしわかき人〱のいふせ
て契すくしきつるをにはかにゆきはなれなむも心ほそしわかき人〱のいふせ
う思ひしつみつるはうれしきものからみすてかたきはまのさまをまたはえしも
う思ひしつみつるはうれしきものからみすてかたきはまのさまをまたはえしも
かへらしかしとよするなみにそへてそてぬれかちなり秋のころほひなれはもの
かへらしかしとよするなみにそへてそてぬれかちなり秋のころほひなれはもの
のあはれとりかさねたる心ちしてそのひとあるあか月に秋風すゝしくてむしの
のあはれとりかさねたる心ちしてそのひとあるあか月に秋風すゝしくてむしの
ねもとりあへぬにうみのかたをみいたしてゐたるに入道れいのこやよりふかう
ねもとりあへぬにうみのかたをみいたしてゐたるに入道れいのこやよりふかう
おきてはなすゝりうちしてをこなひいましたりいみしう事いみすれとたれも
おきてはなすゝりうちしてをこなひいましたりいみしう事いみすれとたれも
〱いとしのひかたしわか君はいとも〱うつくしけによるひかりけむたまの
〱いとしのひかたしわか君はいとも〱うつくしけによるひかりけむたまの
心ちして袖よりほかにはなちきこえさりつるをみなれてまつはし給へる心さま
心ちして袖よりほかにはなちきこえさりつるをみなれてまつはし給へる心さま
Page 584
なとゆゝしきまてかく人にたかへる身をいま〱しく思なからかたときみたて
なとゆゝしきまてかく人にたかへる身をいま〱しく思なからかたときみたて
まつらてはいかてかすくさむとすらむとつゝみあへす
まつらてはいかてかすくさむとすらむとつゝみあへす
ゆくさきをはるかにいのるわかれちにたえぬはおいの涙なりけりいともゆ
ゆくさきをはるかにいのるわかれちにたえぬはおいの涙なりけりいともゆ
ゝしやとてをしのこひかくすあま君
ゝしやとてをしのこひかくすあま君
もろともにみやこはいてきこのたひやひとり野中のみちにまとはんとてな
もろともにみやこはいてきこのたひやひとり野中のみちにまとはんとてな
きたまふさまいとことはりなりこゝら契かはしてつもりぬるとし月のほとを思
きたまふさまいとことはりなりこゝら契かはしてつもりぬるとし月のほとを思
へはかうゝきたることをたのみてすてしよにかへるも思へはゝかなしや御かた
へはかうゝきたることをたのみてすてしよにかへるも思へはゝかなしや御かた
いきてまたあひみむことをいつとてかゝきりもしらぬよをはたのまむをく
いきてまたあひみむことをいつとてかゝきりもしらぬよをはたのまむをく
りにたにとせちにの給へとかた〱につけてえさるましきよしをいひつゝさす
りにたにとせちにの給へとかた〱につけてえさるましきよしをいひつゝさす
かにみちのほともいとうしろめたなきけしきなり世中をすてはしめしにかゝる
かにみちのほともいとうしろめたなきけしきなり世中をすてはしめしにかゝる
人のくににおもひくたりはへりしことゝもたゝ君の御ためと思ふやうにあけく
人のくににおもひくたりはへりしことゝもたゝ君の御ためと思ふやうにあけく
れの御かしつきも心にかなふやうもやと思ひたまへたちしかと身のつたなかり
れの御かしつきも心にかなふやうもやと思ひたまへたちしかと身のつたなかり
けるきはの思しらるゝことおほかりしかはさらにみやこにかへりてふるすらう
けるきはの思しらるゝことおほかりしかはさらにみやこにかへりてふるすらう
のしつめるたくひにてまつしきいへのよもきむくらもとのありさまあらたむる
のしつめるたくひにてまつしきいへのよもきむくらもとのありさまあらたむる
Page 585
こともなきものからおほやけわたくしにおこかましきなをひろめておやの御な
こともなきものからおほやけわたくしにおこかましきなをひろめておやの御な
きかけをはつかしめむ事のいみしさになむやかてよをすてつるかとてなりけり
きかけをはつかしめむ事のいみしさになむやかてよをすてつるかとてなりけり
と人にもしられにしをそのかたにつけてはよう思ひはなちてけりとおもひ侍る
と人にもしられにしをそのかたにつけてはよう思ひはなちてけりとおもひ侍る
に君のやう〱おとなひ給ひものおもほししるへきにそへてはなとかうくちを
に君のやう〱おとなひ給ひものおもほししるへきにそへてはなとかうくちを
しきせかいにてにしきをかくしきこゆらんと心のやみはれまなくなけきわたり
しきせかいにてにしきをかくしきこゆらんと心のやみはれまなくなけきわたり
はへりしまゝに仏神をたのみきこえてさりともかうつたなき身にひかれて山か
はへりしまゝに仏神をたのみきこえてさりともかうつたなき身にひかれて山か
つのいほりにはましりたまはしと思ふ心ひとつをたのみ侍しにおもひよりかた
つのいほりにはましりたまはしと思ふ心ひとつをたのみ侍しにおもひよりかた
くてうれしき事ともをみたてまつりそめてもなかなか身のほとをとさまかうさ
くてうれしき事ともをみたてまつりそめてもなかなか身のほとをとさまかうさ
まにかなしうなけきはへりつれとわか君のかういておはしましたる御すくせの
まにかなしうなけきはへりつれとわか君のかういておはしましたる御すくせの
たのもしさにかゝるなきさに月日をすくし給はむもいとかたしけなう契ことに
たのもしさにかゝるなきさに月日をすくし給はむもいとかたしけなう契ことに
おほせ給へはみたてまつらさらむ心まとひはしつめかたけれとこの身はなかく
おほせ給へはみたてまつらさらむ心まとひはしつめかたけれとこの身はなかく
よをすてし心はへり君たちはよをてらし給ふへきひかりしるけれはしはしかゝ
よをすてし心はへり君たちはよをてらし給ふへきひかりしるけれはしはしかゝ
る山かつの心をみたり給ふはかりの御契こそはありけめ天にむまるゝ人のあや
る山かつの心をみたり給ふはかりの御契こそはありけめ天にむまるゝ人のあや
しきみつのみちにかへるらむ一時に思なすらへてけふなかくわかれたてまつり
しきみつのみちにかへるらむ一時に思なすらへてけふなかくわかれたてまつり
Page 586
ぬいのちつきぬときこしめすとも後のことおほしいとなむなさらぬわかれに御
ぬいのちつきぬときこしめすとも後のことおほしいとなむなさらぬわかれに御
心うこかし給ふなといひはなつものからけふりともならむゆふへまてわか君の
心うこかし給ふなといひはなつものからけふりともならむゆふへまてわか君の
御ことをなむ六時のつとめにも猶心きたなくうちませはへりぬへきとてこれに
御ことをなむ六時のつとめにも猶心きたなくうちませはへりぬへきとてこれに
そうちひそみぬる御車はあまたつつけむもところせくかたへつゝわけむもわつ
そうちひそみぬる御車はあまたつつけむもところせくかたへつゝわけむもわつ
らはしとて御ともの人〱もあなかちにかくろへしのふれはふねにてしのひや
らはしとて御ともの人〱もあなかちにかくろへしのふれはふねにてしのひや
かにとさためたりたつのときにふなてし給ふむかしの人もあはれといひけるう
かにとさためたりたつのときにふなてし給ふむかしの人もあはれといひけるう
らのあさきりへたゝりゆくまゝにいとものかなしくて入道は心すみはつましく
らのあさきりへたゝりゆくまゝにいとものかなしくて入道は心すみはつましく
あくかれなかめゐたりこゝらとしをへていまさらにかへるもなをおもひつきせ
あくかれなかめゐたりこゝらとしをへていまさらにかへるもなをおもひつきせ
すあま君はなき給
すあま君はなき給
かのきしに心よりにしあま舟のそむきしかたにこきかへる哉御かた
かのきしに心よりにしあま舟のそむきしかたにこきかへる哉御かた
いくかへりゆきかふ秋をすくしつゝうき木にのりてわれかへるらんおもふ
いくかへりゆきかふ秋をすくしつゝうき木にのりてわれかへるらんおもふ
かたの風にてかきりけるひたかへすいり給ぬ人にみとかめられしの心もあれは
かたの風にてかきりけるひたかへすいり給ぬ人にみとかめられしの心もあれは
みちの程もかろらかにしなしたりいへのさまもおもしろうてとしころへつるう
みちの程もかろらかにしなしたりいへのさまもおもしろうてとしころへつるう
みつらにおほえたれはところかへたる心ちもせすむかしのこと思ひいてられて
みつらにおほえたれはところかへたる心ちもせすむかしのこと思ひいてられて
Page 587
あはれなることおほかりつくりそへたるらうなとゆへあるさまにみつのなかれ
あはれなることおほかりつくりそへたるらうなとゆへあるさまにみつのなかれ
もおかしうしなしたりまたこまやかなるにはあらねともすみつかはさてもあり
もおかしうしなしたりまたこまやかなるにはあらねともすみつかはさてもあり
ぬへししたしきけいしにおほせ給て御まうけのことせさせ給けりわたり給はむ
ぬへししたしきけいしにおほせ給て御まうけのことせさせ給けりわたり給はむ
ことはとかうおほしたはかるほとにひころへぬなか〱もの思ひつゝけられて
ことはとかうおほしたはかるほとにひころへぬなか〱もの思ひつゝけられて
すてしいへゐも恋しうつれ〱なれはかの御かたみのきむをかきならすおりの
すてしいへゐも恋しうつれ〱なれはかの御かたみのきむをかきならすおりの
いみしうしのひかたけれは人はなれたるかたにうちとけてすこしひくに松風は
いみしうしのひかたけれは人はなれたるかたにうちとけてすこしひくに松風は
したなくひゝきあひたりあま君ものかなしけにてよりふし給へるにおきあかり
したなくひゝきあひたりあま君ものかなしけにてよりふし給へるにおきあかり
て
て
身をかへてひとりかへれる山さとにきゝしににたる松風そふく御かた
身をかへてひとりかへれる山さとにきゝしににたる松風そふく御かた
ふるさとにみしよのともをこひわひてさえつることをたれかわくらんかや
ふるさとにみしよのともをこひわひてさえつることをたれかわくらんかや
うにものはかなくてあかしくらすにおとゝ中〱しつ心なくおほさるれは人め
うにものはかなくてあかしくらすにおとゝ中〱しつ心なくおほさるれは人め
をもえはゝかりあへ給はてわたり給を女君はかくなむとたしかにしらせたてま
をもえはゝかりあへ給はてわたり給を女君はかくなむとたしかにしらせたてま
つり給はさりけるをれゐのきゝもやあはせ給ふとてせうそこきこえ給ふかつら
つり給はさりけるをれゐのきゝもやあはせ給ふとてせうそこきこえ給ふかつら
にみるへきことはへるをいさや心にもあらてほとへにけりとふらはむといひし
にみるへきことはへるをいさや心にもあらてほとへにけりとふらはむといひし
Page 588
人さへかのわたりちかくきゐてまつなれは心くるしくてなむさかのゝみたうに
人さへかのわたりちかくきゐてまつなれは心くるしくてなむさかのゝみたうに
もかさりなき仏の御とふらひすへけれは二三日は侍なんときこえ給かつらの院
もかさりなき仏の御とふらひすへけれは二三日は侍なんときこえ給かつらの院
といふところにはかにつくらせ給ふときくはそこにすへ給へるにやとおほすに
といふところにはかにつくらせ給ふときくはそこにすへ給へるにやとおほすに
心つきなけれはおのゝえさへあらため給はむほとやまちとをにと心ゆかぬ御け
心つきなけれはおのゝえさへあらため給はむほとやまちとをにと心ゆかぬ御け
しきなりれいのくらへくるしき御心いにしへのありさまなこりなしと世人もい
しきなりれいのくらへくるしき御心いにしへのありさまなこりなしと世人もい
ふなるものをなにやかやと御心とり給程にひたけぬしのひやかにこせむうとき
ふなるものをなにやかやと御心とり給程にひたけぬしのひやかにこせむうとき
はませて御心つかひしてわたり給ひぬたそかれときにおはしつきたりかりの御
はませて御心つかひしてわたり給ひぬたそかれときにおはしつきたりかりの御
そにやつれ給へりしたに世にしらぬ心ちせしをましてさる御心してひきつくろ
そにやつれ給へりしたに世にしらぬ心ちせしをましてさる御心してひきつくろ
ひ給へる御なをしすかたよになくなまめかしうまはゆき心ちすれは思ひむせへ
ひ給へる御なをしすかたよになくなまめかしうまはゆき心ちすれは思ひむせへ
る心のやみもはるゝやうなりめつらしうあはれにてわか君をみたまふもいかゝ
る心のやみもはるゝやうなりめつらしうあはれにてわか君をみたまふもいかゝ
あさくおほされんいまゝてへたてけるとし月たにあさましくゝやしきまておも
あさくおほされんいまゝてへたてけるとし月たにあさましくゝやしきまておも
ほす大とのはらの君をうつくしけなりとよ人もてさはくは猶ときよによれは人
ほす大とのはらの君をうつくしけなりとよ人もてさはくは猶ときよによれは人
のみなすなりけりかくこそはすくれたる人の山くちはしるかりけれとうちゑみ
のみなすなりけりかくこそはすくれたる人の山くちはしるかりけれとうちゑみ
たるかほのなに心なきかあいきやうつきにほひたるをいみしうらうたしとおほ
たるかほのなに心なきかあいきやうつきにほひたるをいみしうらうたしとおほ
Page 589
すめのとのくたりし程はをとろへたりしかたちねひまさりてつきころの御もの
すめのとのくたりし程はをとろへたりしかたちねひまさりてつきころの御もの
かたりなとなれきこゆるをあはれにさるしほやのかたはらにすくしつらむこと
かたりなとなれきこゆるをあはれにさるしほやのかたはらにすくしつらむこと
をおほしのたまふこゝにもいとさとはなれてわたらむこともかたきを猶かのほ
をおほしのたまふこゝにもいとさとはなれてわたらむこともかたきを猶かのほ
いあるところにうつろひ給へとのたまへといとうゐ〱しきほとすくしてとき
いあるところにうつろひ給へとのたまへといとうゐ〱しきほとすくしてとき
こゆるもことはりなりよひと夜よろつに契かたらひあかし給ふつくろふへきと
こゆるもことはりなりよひと夜よろつに契かたらひあかし給ふつくろふへきと
ころ〱のあつかりいまくはへたるけいしなとにおほせらるかつらの院にわた
ころ〱のあつかりいまくはへたるけいしなとにおほせらるかつらの院にわた
り給ふへしとありけれはちかきみさうの人〱まいりあつまりたりけるもみな
り給ふへしとありけれはちかきみさうの人〱まいりあつまりたりけるもみな
たつねまいりたりせむさいとものおれふしたるなとつくろはせ給ふこゝかしこ
たつねまいりたりせむさいとものおれふしたるなとつくろはせ給ふこゝかしこ
のたていしともゝみなまろひうせたるをなさけありてしなさはおかしかりぬへ
のたていしともゝみなまろひうせたるをなさけありてしなさはおかしかりぬへ
きところかなかゝるところをわさとつくろふもあいなきわさなりさてもすくし
きところかなかゝるところをわさとつくろふもあいなきわさなりさてもすくし
はてねはたつときものうく心とまるくるしかりきなときしかたのことものたま
はてねはたつときものうく心とまるくるしかりきなときしかたのことものたま
ひいてゝなきみわらひみうちとけのたまへるいとめてたしあま君のそきてみた
ひいてゝなきみわらひみうちとけのたまへるいとめてたしあま君のそきてみた
てまつるにおいもわすれもの思ひもはるゝ心ちしてうちゑみぬひんかしのわた
てまつるにおいもわすれもの思ひもはるゝ心ちしてうちゑみぬひんかしのわた
とのゝしたよりいつるみつの心はへつくろはせ給とていとなまめかしきうちき
とのゝしたよりいつるみつの心はへつくろはせ給とていとなまめかしきうちき
Page 590
すかたうちとけ給へるをいとめてたうゝれしとみたてまつるにあかのくなとの
すかたうちとけ給へるをいとめてたうゝれしとみたてまつるにあかのくなとの
あるをみたまふにおほしいてゝあま君はこなたにかいとしとけなきすかたなり
あるをみたまふにおほしいてゝあま君はこなたにかいとしとけなきすかたなり
けりやとて御なをしめしいてゝたてまつるき丁のもとにより給てつみかろくお
けりやとて御なをしめしいてゝたてまつるき丁のもとにより給てつみかろくお
ほしたてたまへる人のゆへは御おこなひのほとあはれにこそおもひなしきこゆ
ほしたてたまへる人のゆへは御おこなひのほとあはれにこそおもひなしきこゆ
れいといたく思すまし給へりし御すみかをすてゝうきよにかへり給へる心さし
れいといたく思すまし給へりし御すみかをすてゝうきよにかへり給へる心さし
あさからすまたかしこにはいかにとまりて思をこせ給ふらむとさま〱になむ
あさからすまたかしこにはいかにとまりて思をこせ給ふらむとさま〱になむ
といとなつかしうの給すてはへりし世をいまさらにたちかへり思ひたまへみた
といとなつかしうの給すてはへりし世をいまさらにたちかへり思ひたまへみた
るゝををしはからせ給ひけれはいのちなかさのしるしも思ひ給へしられぬると
るゝををしはからせ給ひけれはいのちなかさのしるしも思ひ給へしられぬると
うちなきてあらいそかけに心くるしうおもひきこえさせはへりしふたはのまつ
うちなきてあらいそかけに心くるしうおもひきこえさせはへりしふたはのまつ
もいまはたのもしき御をひさきといはゐきこえさするをあさきねさしゆへやい
もいまはたのもしき御をひさきといはゐきこえさするをあさきねさしゆへやい
かゝとかた〱心つくされはへるなときこゆるけはひよしなからねはむかしも
かゝとかた〱心つくされはへるなときこゆるけはひよしなからねはむかしも
のかたりにみこのすみ給けるありさまなとかたらせ給ふにつくろはれたるみつ
のかたりにみこのすみ給けるありさまなとかたらせ給ふにつくろはれたるみつ
のをとなひかことかましうきこゆ
のをとなひかことかましうきこゆ
すみなれし人はかへりてたとれともしみつはやとのあるしかほなるわさと
すみなれし人はかへりてたとれともしみつはやとのあるしかほなるわさと
Page 591
はなくていひけつさまみやひかによしときゝ給ふ
はなくていひけつさまみやひかによしときゝ給ふ
いさらゐはゝやくのこともわすれしをもとのあるしやおもかはりせるあは
いさらゐはゝやくのこともわすれしをもとのあるしやおもかはりせるあは
れとうちなかめてたち給ふすかたにほひ世にしらすとのみおもひきこゆみてら
れとうちなかめてたち給ふすかたにほひ世にしらすとのみおもひきこゆみてら
にわたり給ふて月ことの十四五日つこもりの日おこなはるへきふけむかうあみ
にわたり給ふて月ことの十四五日つこもりの日おこなはるへきふけむかうあみ
たさかの念仏の三昧をはさるものにて又〱くはへをこなはせ給ふへき事なと
たさかの念仏の三昧をはさるものにて又〱くはへをこなはせ給ふへき事なと
さためをかせ給ふたうのかさり仏の御具なとめくらしおほせらる月のあかきに
さためをかせ給ふたうのかさり仏の御具なとめくらしおほせらる月のあかきに
かへり給ふありしよのことおほしいてらるゝおりすくさすかのきむの御ことさ
かへり給ふありしよのことおほしいてらるゝおりすくさすかのきむの御ことさ
しいてたりそこはかとなくものあはれなるにえしのひ給はてかきならし給ふま
しいてたりそこはかとなくものあはれなるにえしのひ給はてかきならし給ふま
たしらへもかはらすひきかへしそのおりいまの心ちし給ふ
たしらへもかはらすひきかへしそのおりいまの心ちし給ふ
ちきりしにかはらぬことのしらへにてたえぬ心のほとはしりきや女
ちきりしにかはらぬことのしらへにてたえぬ心のほとはしりきや女
かはらしと契しことをたのみにてまつのひゝきにねをそへしかなときこえ
かはらしと契しことをたのみにてまつのひゝきにねをそへしかなときこえ
かはしたるもにけなからぬこそは身にあまりたるありさまなめれこよなうねひ
かはしたるもにけなからぬこそは身にあまりたるありさまなめれこよなうねひ
まさりにけるかたちけはひえおもほしすつましうわか君はたつきもせすまほら
まさりにけるかたちけはひえおもほしすつましうわか君はたつきもせすまほら
れ給ふいかにせましかくろへたるさまにておいゝてむか心くるしうくちをしき
れ給ふいかにせましかくろへたるさまにておいゝてむか心くるしうくちをしき
Page 592
を二条の院にわたして心のゆくかきりもてなさは後のおほえもつみまぬかれな
を二条の院にわたして心のゆくかきりもてなさは後のおほえもつみまぬかれな
むかしとおもほせとまた思はむ事いとをしくてえうちいて給はてなみたくみて
むかしとおもほせとまた思はむ事いとをしくてえうちいて給はてなみたくみて
みたまふおさなき心ちにすこしはちらひたりしかやうやうゝちとけてものいひ
みたまふおさなき心ちにすこしはちらひたりしかやうやうゝちとけてものいひ
わらひなとしてむつれたまふをみるまゝににほひまさりてうつくしいたきてお
わらひなとしてむつれたまふをみるまゝににほひまさりてうつくしいたきてお
はするさまみるかひありてすくせこよなしとみえたりまたの日は京へかへらせ
はするさまみるかひありてすくせこよなしとみえたりまたの日は京へかへらせ
給ふへけれはすこしおほとのこもりすくしてやかてこれよりいて給ふへきをか
給ふへけれはすこしおほとのこもりすくしてやかてこれよりいて給ふへきをか
つらの院に人〱おほくまいりつとひてこゝにも殿上人あまたまいりたり御さ
つらの院に人〱おほくまいりつとひてこゝにも殿上人あまたまいりたり御さ
うすくなとしたまいていとはしたなきわさかなかくみあらはさるへきくまにも
うすくなとしたまいていとはしたなきわさかなかくみあらはさるへきくまにも
あらぬをとてさはかしきにひかれていて給ふ心くるしけれはさりけなくまきら
あらぬをとてさはかしきにひかれていて給ふ心くるしけれはさりけなくまきら
はしてたちとまり給へるとくちにめのとわか君いたきてさしいてたりあはれな
はしてたちとまり給へるとくちにめのとわか君いたきてさしいてたりあはれな
る御けしきにかきなてたまひてみてはいとくるしかりぬへきこそいとうちつけ
る御けしきにかきなてたまひてみてはいとくるしかりぬへきこそいとうちつけ
なれいかゝすへきいとさとゝをしやとのたまへはゝるかに思たまへたえたりつ
なれいかゝすへきいとさとゝをしやとのたまへはゝるかに思たまへたえたりつ
るとしころよりもいまからの御もてなしのおほつかなう侍らむは心つくしにな
るとしころよりもいまからの御もてなしのおほつかなう侍らむは心つくしにな
ときこゆわか君てをさしいてゝたち給へるをしたひ給へはついゐたまひてあや
ときこゆわか君てをさしいてゝたち給へるをしたひ給へはついゐたまひてあや
Page 593
しうものおもひたえぬ身にこそありけれしはしにてもくるしやいつらなともろ
しうものおもひたえぬ身にこそありけれしはしにてもくるしやいつらなともろ
ともにいてゝはおしみたまはぬさらはこそ人心ちもせめとのたまへはうちわら
ともにいてゝはおしみたまはぬさらはこそ人心ちもせめとのたまへはうちわら
ひて女君にかくなむときこゆ中〱もの思ひみたれてふしたれはとみにしもう
ひて女君にかくなむときこゆ中〱もの思ひみたれてふしたれはとみにしもう
こかれすあまり上すめかしとおほしたり人〱もかたはらいたかれはしふ〱
こかれすあまり上すめかしとおほしたり人〱もかたはらいたかれはしふ〱
にゐさりいてゝき丁にはたかくれたるかたはらめいみしうなまめいてよしあり
にゐさりいてゝき丁にはたかくれたるかたはらめいみしうなまめいてよしあり
たをやきたるけはひみこたちといはむにもたりぬへしかたひらひきやりてこま
たをやきたるけはひみこたちといはむにもたりぬへしかたひらひきやりてこま
やかにかたらひ給ふとてとはかりかへりみ給へるにさこそしつめつれみをくり
やかにかたらひ給ふとてとはかりかへりみ給へるにさこそしつめつれみをくり
きこゆいはむかたなきさかりの御かたちなりいたうそひやき給へりしかすこし
きこゆいはむかたなきさかりの御かたちなりいたうそひやき給へりしかすこし
なりあふほとになり給ひにける御すかたなとかくてこそもの〱しかりけれと
なりあふほとになり給ひにける御すかたなとかくてこそもの〱しかりけれと
御さしぬきのすそまてなまめかしうあいきやうのこほれいつるそあなかちなる
御さしぬきのすそまてなまめかしうあいきやうのこほれいつるそあなかちなる
みなしなるへきかのとけたりしくら人もかへりなりにけりゆけひのせうにてこ
みなしなるへきかのとけたりしくら人もかへりなりにけりゆけひのせうにてこ
としかうふりえてけりむかしにあらため心ちよけにて御はかしとりによりきた
としかうふりえてけりむかしにあらため心ちよけにて御はかしとりによりきた
り人かけをみつけてきしかたのものわすれしはへらねとかしこけれはえこそう
り人かけをみつけてきしかたのものわすれしはへらねとかしこけれはえこそう
ら風おほえ侍つるあか月のねさめにもおとろかしきこえさすへきよすかたにな
ら風おほえ侍つるあか月のねさめにもおとろかしきこえさすへきよすかたにな
Page 594
くてとけしきはむをやへたつ山はさらにしまかくれにもおとらさりけるをまつ
くてとけしきはむをやへたつ山はさらにしまかくれにもおとらさりけるをまつ
もむかしのとたとられつるにわすれぬ人もゝのし給ひけるにたのもしなといふ
もむかしのとたとられつるにわすれぬ人もゝのし給ひけるにたのもしなといふ
こよなしやわれも思ひなきにしもあらさりしをなとあさましうおほゆれといま
こよなしやわれも思ひなきにしもあらさりしをなとあさましうおほゆれといま
ことさらにとうちけさやきてまいりぬいとよそほしくさしあゆみ給ふほとかし
ことさらにとうちけさやきてまいりぬいとよそほしくさしあゆみ給ふほとかし
かましうをひはらひて御車のしりに頭中将兵衛督のせたまふいとかる〱しき
かましうをひはらひて御車のしりに頭中将兵衛督のせたまふいとかる〱しき
かくれかみあらはされぬるこそねたうといたうからかり給よへの月にくちをし
かくれかみあらはされぬるこそねたうといたうからかり給よへの月にくちをし
う御ともにをくれ侍にけるとおもひ給へられしかはけさきりをわけてまいり侍
う御ともにをくれ侍にけるとおもひ給へられしかはけさきりをわけてまいり侍
つる山のにしきはまたしう侍りけりのへの色こそさかりにはへりけれなにかし
つる山のにしきはまたしう侍りけりのへの色こそさかりにはへりけれなにかし
のあそむのこたかにかゝつらひてたちをくれ侍ぬるいかゝなりぬらむなといふ
のあそむのこたかにかゝつらひてたちをくれ侍ぬるいかゝなりぬらむなといふ
けふは猶かつらとのにとてそなたさまにおはしましぬにはかなる御あるしとさ
けふは猶かつらとのにとてそなたさまにおはしましぬにはかなる御あるしとさ
はきてうかひともめしたるにあまのさへつりおほしいてらるのにとまりぬるき
はきてうかひともめしたるにあまのさへつりおほしいてらるのにとまりぬるき
むたちことりしるしはかりひきつけさせたるおきのえたなとつとにしてまいれ
むたちことりしるしはかりひきつけさせたるおきのえたなとつとにしてまいれ
りおほみきあまたゝひすむなかれてかはのわたりあやうけなれはゑひにまきれ
りおほみきあまたゝひすむなかれてかはのわたりあやうけなれはゑひにまきれ
ておはしましくらしつをの〱絶句なとつくりわたして月はなやかにさしいつ
ておはしましくらしつをの〱絶句なとつくりわたして月はなやかにさしいつ
Page 595
るほとにおほみあそひはしまりていといまめかしひきものひはわこむはかりふ
るほとにおほみあそひはしまりていといまめかしひきものひはわこむはかりふ
えとも上すのかきりしておりにあひたるてうしふきたつるほとかは風吹あはせ
えとも上すのかきりしておりにあひたるてうしふきたつるほとかは風吹あはせ
ておもしろきに月たかくさしあかりよろつの事すめるよのやゝふくるほとに殿
ておもしろきに月たかくさしあかりよろつの事すめるよのやゝふくるほとに殿
上人四五人はかりつれてまいれりうへにさふらひけるを御あそひありけるつい
上人四五人はかりつれてまいれりうへにさふらひけるを御あそひありけるつい
てにけふは六日の御ものいみあくひにてかならすまいり給へきをいかなれはと
てにけふは六日の御ものいみあくひにてかならすまいり給へきをいかなれはと
おほせられけれはこゝにかうとまらせ給にけるよしきこしめして御せうそこあ
おほせられけれはこゝにかうとまらせ給にけるよしきこしめして御せうそこあ
るなりけり御つかひはくら人の弁なりけり
るなりけり御つかひはくら人の弁なりけり
月のすむかはのをちなる里なれはかつらのかけはのとけかるらむうらやま
月のすむかはのをちなる里なれはかつらのかけはのとけかるらむうらやま
しうとありかしこまりきこえさせ給ふうへの御あそひよりもなをところからの
しうとありかしこまりきこえさせ給ふうへの御あそひよりもなをところからの
すこさそへたるものゝねをめてゝまたゑひくはゝりぬこゝにはまうけのものも
すこさそへたるものゝねをめてゝまたゑひくはゝりぬこゝにはまうけのものも
さふらはさりけれはおほゐにわさとならぬまうけのものやといひつかはしたり
さふらはさりけれはおほゐにわさとならぬまうけのものやといひつかはしたり
とりあへたるにしたかひてまいらせたりきぬひつふたかけにてあるを御つかひ
とりあへたるにしたかひてまいらせたりきぬひつふたかけにてあるを御つかひ
の弁はとくかへりまいれは女のさうすくかつけたまふ
の弁はとくかへりまいれは女のさうすくかつけたまふ
ひさかたのひかりにちかき名のみしてあさゆふきりもはれぬ山里行幸まち
ひさかたのひかりにちかき名のみしてあさゆふきりもはれぬ山里行幸まち
Page 596
きこえ給ふ心はへなるへし中におひたるとうちすんし給ふついてにかのあわち
きこえ給ふ心はへなるへし中におひたるとうちすんし給ふついてにかのあわち
しまをおほしいてゝみつねかところからかとおほめきけむことなとの給ひいて
しまをおほしいてゝみつねかところからかとおほめきけむことなとの給ひいて
たるにものあはれなるゑいなきともあるへし
たるにものあはれなるゑいなきともあるへし
めくりきてゝにとるはかりさやけきやあはちのしまのあはとみし月頭中将
めくりきてゝにとるはかりさやけきやあはちのしまのあはとみし月頭中将
うき雲にしはしまかひし月かけのすみはつるよそのとけかるへき左大弁す
うき雲にしはしまかひし月かけのすみはつるよそのとけかるへき左大弁す
こしおとなひてこ院の御ときにもむつましうつかうまつりなれし人なりけり
こしおとなひてこ院の御ときにもむつましうつかうまつりなれし人なりけり
雲のうへのすみかをすてゝよはの月いつれのたにゝかけかくしけむ心〱
雲のうへのすみかをすてゝよはの月いつれのたにゝかけかくしけむ心〱
にあまたあめれとうるさくてなむけちかうゝちしつまりたる御物かたりすこし
にあまたあめれとうるさくてなむけちかうゝちしつまりたる御物かたりすこし
うちみたれてちとせもみきかまほしき御ありさまなれはをのゝえもくちぬへけ
うちみたれてちとせもみきかまほしき御ありさまなれはをのゝえもくちぬへけ
れとけふさへはとていそきかへり給ふものともしなしなにかつけてきりのたえ
れとけふさへはとていそきかへり給ふものともしなしなにかつけてきりのたえ
まにたちましりたるもせむさいのはなにみえまかひたるいろあひなとことにめ
まにたちましりたるもせむさいのはなにみえまかひたるいろあひなとことにめ
てたし近衛つかさのなたかきとねりものゝふしともなとさふらふにさう〱し
てたし近衛つかさのなたかきとねりものゝふしともなとさふらふにさう〱し
けれはそのこまなとみたれあそひてぬきかけ給ふ色色秋のにしきを風のふきお
けれはそのこまなとみたれあそひてぬきかけ給ふ色色秋のにしきを風のふきお
ほふかとみゆのゝしりてかへらせたまふひゝきおほゐにはものへたてゝきゝて
ほふかとみゆのゝしりてかへらせたまふひゝきおほゐにはものへたてゝきゝて
Page 597
なこりさひしうなかめ給ふ御せうそこをたにせてとおとゝも御心にかゝれりと
なこりさひしうなかめ給ふ御せうそこをたにせてとおとゝも御心にかゝれりと
のにおはしてとはかりうちやすみ給ふ山さとの御物かたりなときこえ給ふいと
のにおはしてとはかりうちやすみ給ふ山さとの御物かたりなときこえ給ふいと
まきこえしほとすきつれはいとくるしうこそこのすきものとものたつねきてい
まきこえしほとすきつれはいとくるしうこそこのすきものとものたつねきてい
といたうしひとゝめしにひかされてけさはいとなやましとておほとのこもれり
といたうしひとゝめしにひかされてけさはいとなやましとておほとのこもれり
れいの心とけすみえ給へとみしらぬやうにてなすらひならぬ程をおほしくらふ
れいの心とけすみえ給へとみしらぬやうにてなすらひならぬ程をおほしくらふ
るもわるきわさなめりわれはわれと思なし給へとをしへきこえ給ふくれかゝる
るもわるきわさなめりわれはわれと思なし給へとをしへきこえ給ふくれかゝる
ほとに内へまいり給ふにひきそはめていそきかき給ふはかしこへなめりそはめ
ほとに内へまいり給ふにひきそはめていそきかき給ふはかしこへなめりそはめ
こまやかにみゆうちさゝめきてつかはすをこたちなとにくみきこゆそのよはう
こまやかにみゆうちさゝめきてつかはすをこたちなとにくみきこゆそのよはう
ちにもさふらひ給ふへけれとゝけさりつる御けしきとりに夜ふけぬれとまかて
ちにもさふらひ給ふへけれとゝけさりつる御けしきとりに夜ふけぬれとまかて
給ひぬありつる御かへりもてまいれりえひきかくし給はて御らんすことににく
給ひぬありつる御かへりもてまいれりえひきかくし給はて御らんすことににく
かるへきふしもみえねはこれやりかくし給へむつかしやかゝるものゝちらむも
かるへきふしもみえねはこれやりかくし給へむつかしやかゝるものゝちらむも
いまはつきなきほとになりにけりとて御けうそくによりゐ給ひて御心のうちに
いまはつきなきほとになりにけりとて御けうそくによりゐ給ひて御心のうちに
はいとあはれに恋しうおほしやらるれはひをうちなかめてことにものものたま
はいとあはれに恋しうおほしやらるれはひをうちなかめてことにものものたま
はすふみはひろこりなからあれと女君みたまはぬやうなるをせめてみかくし給
はすふみはひろこりなからあれと女君みたまはぬやうなるをせめてみかくし給
Page 598
ふ御ましりこそわつらはしけれとてうちゑみ給へる御あいきやうところせきま
ふ御ましりこそわつらはしけれとてうちゑみ給へる御あいきやうところせきま
てこほれぬへしさしより給ひてまことはらうたけなるものをみしかはちきりあ
てこほれぬへしさしより給ひてまことはらうたけなるものをみしかはちきりあ
さくもみえぬをさりとてものめかさむほともはゝかりおほかるに思ひなむわつ
さくもみえぬをさりとてものめかさむほともはゝかりおほかるに思ひなむわつ
らひぬるおなし心におもひめくらして御心に思さため給へいかゝすへきこゝに
らひぬるおなし心におもひめくらして御心に思さため給へいかゝすへきこゝに
てはくゝみたまひてんやひるのこかよはひにもなりにけるをつみなきさまなる
てはくゝみたまひてんやひるのこかよはひにもなりにけるをつみなきさまなる
も思ひすてかたうこそいはけなけなるしもつかたもまきらはさむなとおもふを
も思ひすてかたうこそいはけなけなるしもつかたもまきらはさむなとおもふを
めさましとおほさすはひきゆひたまへかしときこえ給ふおもはすにのみとりな
めさましとおほさすはひきゆひたまへかしときこえ給ふおもはすにのみとりな
し給ふ御心のへたてをせめてみしらすうらなくやはとてこそいはけなからん御
し給ふ御心のへたてをせめてみしらすうらなくやはとてこそいはけなからん御
心にはいとようかなひぬへくなんいかにうつくしきほとにとてすこしうちゑみ
心にはいとようかなひぬへくなんいかにうつくしきほとにとてすこしうちゑみ
給ひぬちこをわりなうらうたきものにしたまふ御心なれはえていたきかしつか
給ひぬちこをわりなうらうたきものにしたまふ御心なれはえていたきかしつか
はやとおほすいかにせましむかへやせましとおほしみたるわたり給こといとか
はやとおほすいかにせましむかへやせましとおほしみたるわたり給こといとか
たしさかのゝみたうの念仏なとまちいてゝ月にふたたひはかりの御ちきりなめ
たしさかのゝみたうの念仏なとまちいてゝ月にふたたひはかりの御ちきりなめ
りとしのわたりにはたちまさりぬへかめるをゝよひなきことゝおもへとも猶い
りとしのわたりにはたちまさりぬへかめるをゝよひなきことゝおもへとも猶い
かゝものおもはしからぬ
かゝものおもはしからぬ