校異源氏物語 powerd by Gatsby CETEIcean
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きさらきのはつかあまり南殿のさくらの宴せさせ給后春宮の御つほね左右にし てまうのほりたまふ弘徽殿の女御中宮のかくておはするを折ふしことにやすか らすおほせとものみにはえすくし給はてまいり給日いとよくはれて空のけしき 鳥のこゑも心ちよけなるにみこたちかむたちめよりはしめてその道のはみなた むゐむ給はりてふみつくり給ふ宰相中将春といふもし給はれりとの給ふこゑさ へれいの人にことなりつきに頭中将人のめうつしもたゝならすおほゆへかめれ といとめやすくもてしつめてこはつかひなともの〱しくすくれたりさての人 〱はみなをくしかちにはなしろめるおほかり地下の人はましてみかと春宮の 御さえかしこくすくれておはしますかゝるかたにやむことなき人おほくものし 給ふころなるにはつかしくはる〱とくもりなきにはにたちいつるほとはした なくてやすき事なれとくるしけなりとしおいたるはかせとものなりあやしくや つれてれいなれたるもあはれにさま〱御らんするなむおかしかりけるかくと もなとはさらにもいはすととのへさせ給へりやう〱入日になるほと春の鴬さ へつるといふまひいとおもしろくみゆるに源氏の御もみちの賀のおりおほしい
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てられて春宮かさしたまはせてせちにせめのたまはするにのかれかたくてたち てのとかにそてかへすところをひとをれけしきはかりまひ給へるににるへきも のなくみゆ左のおとゝうらめしさもわすれて涙をとし給ふ頭中将いつらおそし とあれは柳花園といふまひをこれはいますこしすくしてかゝる事もやと心つか ひやしけむいとおもしろけれは御そ給はりていとめつらしき事に人をもへりか むたちめみなみたれてまひ給へと夜に入てはことにけちめもみえすふみなとか うするにも源氏の君の御をはかうしもえよみやらすくことにすしのゝしるはか せともの心にもいみしうおもへりかうやうのおりにもまつこの君をひかりにし たまへれはみかともいかてかをろかにおほされん中宮御めのとまるにつけて春 宮の女御のあなかちににくみ給らむもあやしうわかかうおもふも心うしとそみ つからおほしかへされける   おほかたに花のすかたをみましかは露も心のおかれましやは御心のうちな りけんこといかてもりにけむ夜いたうふけてなむことはてける上達部をのをの あかれ后春宮かへらせ給ひぬれはのとやかになりぬるに月いとあかうさしいて
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ゝおかしきを源氏の君ゑい心ちにみすくしかたくおほえ給ひけれはうへの人 〱もうちやすみてかやうに思ひかけぬほとにもしさりぬへきひまもやあると ふちつほわたりをわりなふしのひてうかゝひありけとかたらふへきとくちもさ してけれはうちなけきてなをあらしに弘徽殿のほそとのにたちより給へれは三 のくちあきたり女御はうへの御つほねにやかてまうのほり給にけれは人すくな ゝるけはひなりおくのくるゝともあきて人をともせすかやうにて世中のあやま ちはするそかしと思ひてやをらのほりてのそき給人はみなねたるへしいとわか うおかしけなるこゑのなへての人とはきこえぬおほろ月夜ににるものそなきと うちすしてこなたさまにはくるものかいとうれしくてふと袖をとらへたまふ女 おそろしと思へるけしきにてあなむくつけこはたそとの給へとなにかうとまし きとて   ふかき夜のあはれをしるも入月のおほろけならぬ契とそおもふとてやをら いたきおろしてとはをしたてつあさましきにあきれたるさまいとなつかしうお かしけなりわなゝく〱こゝに人とのたまへとまろはみな人にゆるされたれは
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めしよせたりともなむてう事かあらんたゝしのひてこそとの給ふこゑにこのき みなりけりときゝさためていささかなくさめけりわひしとおもへるものからな さけなくこわ〱しうはみえしとおもへりゑい心ちやれいならさりけむゆるさ ん事はくちおしきに女もわかうたをやきてつよき心もしらぬなるへしらうたし とみ給ふにほとなくあけゆけは心あはたゝし女はましてさま〱におもひみた れたるけしきなり猶なのりしたまへいかてきこゆへきかうてやみなむとはさり ともおほされしとの給へは   うき身世にやかてきえなはたつねても草のはらをはとはしとやおもふとい ふさまえむになまめきたりことはりやきこえたかへたるもしかなとて   いつれそと露のやとりをわかむまにこさゝかはらにかせもこそふけわつら はしくおほす事ならすはなにかつゝまむもしすかい給ふかともいひあへす人 〱おきさはきうへの御つほねにまひりちかふけしきともしけくまよへはいと はりなくてあふきはかりをしるしにとりかへていて給ひぬきりつほには人〱 おほくさふらひておとろきたるもあれはかゝるをさもたゆみなき御しのひあり
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きかなとつきしろひつゝそらねをそしあへるいり給ひてふし給へれとねいられ すおかしかりつる人のさまかな女御の御おとうとたちにこそはあらめまた世に なれぬは五六の君ならんかしそちの宮の北の方頭中将のすさめぬ四の君なとこ そよしときゝしかなか〱それならましかはいますこしおかしからまし六は春 宮にたてまつらんと心さし給へるをいとおしうもあるへいかなわつらはしうた つねむ程もまきらはしさてたえなむとはおもはぬけしきなりつるをいかなれは ことかよはすへきさまをゝしへすなりぬらんなとよろつにおもふも心のとまる なるへしかうやうなるにつけてもまつかのわたりのありさまのこよなうおくま りたるはやとありかたふおもひくらへられ給ふその日は後宴の事ありてまきれ くらしたまひつさうのことつかうまつり給きのふの事よりもなまめかしうおも しろしふちつほはあかつきにまうのほり給にけりかのありあけいてやしぬらん と心も空にておもひいたらぬくまなきよしきよこれみつをつけてうかゝはせ給 けれはおまへよりまかて給ひけるほとにたゝいま北のちんよりかねてよりかく れたちて侍つる車ともまかりいつる御かた〱のさと人侍へる中に四位の少将
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右中弁なといそきいててをくりし侍へるや弘徽殿の御あかれならんとみ給へつ るけしうはあらぬけはひともしるくてくるまみつはかり侍つときこゆるにもむ ねうちつふれ給ふいかにしていつれとしらむちゝ おとゝ なときゝ てこと〱し うもてなさんもいかにそやまた人のありさまよくみさためぬほとはわつらはし かるへしさりとてしらてあらんはたいとくちおしかるへけれはいかにせましと おほしわつらひてつく〱となかめふし給へりひめ君いかにつれ〱ならんひ ころになれはくしてやあらむとらうたくおほしやるかのしるしのあふきはさく らかさねにてこきかたにかすめる月をかきて水にうつしたる心はへめなれたる 事なれとゆへなつかしうもてならしたりくさのはらをはといひしさまのみ心に かゝり給へは   世にしらぬ心ちこそすれ有明の月のゆくゑをそらにまかへてとかきつけ給 ひてをき給へりおほいとのにもひさしうなりにけるとおほせとわか君も心くる しけれはこしらへむとおほして二条院へおはしぬみるまゝにいとうつくしけに おひなりてあいきやうつきらう〱しき心はえいとことなりあかぬ所なうわか
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御心のまゝにをしへなさんとおほすにかなひぬへしおとこの御をしへなれはす こし人なれたる事やましらむとおもふこそうしろめたけれ日ころの御ものかた り御ことなとをしへくらしていて給ふをれいのとくちおしうおほせといまはい とようならはされてわりなくはしたひまつはさすおほいとのにはれいのふとも たいめんしたまはすつれ〱とよろつおほしめくらされてさうの御ことまさく りてやはらかにぬる夜はなくてとうたひ給おとゝわたり給ひて一日のけふあり し事きこえ給ふこゝらのよはひにてめいわうの御代四代をなんみ侍ぬれとこの たひのやうにふみともきやうさくにまひかくものゝねともととのほりてよはひ のふる事なむ侍らさりつる道〱のものの上手ともおほかるころをひくはしう しろしめしとゝのへさせ給へるけなりおきなもほとほとまひいてぬへき心ちな んし侍しときこえ給へはことにとゝのへおこなふ事も侍らすたゝおほやけ事に そしうなるものゝしともをこゝかしこにたつね侍しなりよろつのことよりは柳 花園まことにこうたいのれいともなりぬへくみたまへしにましてさかゆくはる にたちいてさせ給へましかは世のめんほくにや侍らましときこえ給ふ弁中将な
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とまいりあひてかうらむにせなかをしつゝとり〱にもののねともしらへあは せてあそひ給ふいとおもしろしかのありあけの君ははかなかりし夢をおほしい てゝいとものなけかしうなかめ給ふ春宮には卯月はかりとおほしさためたれは いとわりなうおほしみたれたるをおとこもたつね給はむにあとはかなくはあら ねといつれともしらてことにゆるし給はぬあたりにかかつらはむも人わるくお もひわつらひ給ふにやよひの廿余日右大殿のゆみのけちにかむたちめみこたち おほくつとへ給てやかてふちの宴し給ふ花さかりはすきにたるをほかのちりな むとやをしへられたりけむをくれてさくさくらふた木そいとおもしろきあたら しうつくり給へる殿を宮たちの御もきの日みかきしつらはれたりはなはなとも のし給殿のやうにてなに事もいまめかしうもてなし給へり源氏の君にも一日う ちにて御たいめんのついてにきこえ給しかとおはせねはくちおしうものゝはえ なしとおほして御この四位の少将をたてまつりたまふ   わかやとの花しなへての色ならはなにかはさらに君をまたまし内におはす るほとにてうへにそうし給ふしたりかほなりやとわらはせ給てわさとあめるを
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はやうものせよかし女みこたちなともおいいつる所なれはなへてのさまには思 ましきをなとの給はす御よそひなとひきつくろひ給ていたうくるゝほとにまた れてそわたり給さくらのからのきの御なをしえひそめのしたかさねしりいとな かくひきてみな人はうへのきぬなるにあされたるおほきみすかたのなまめきた るにていつかれいりたまへる御さまけにいとことなり花のにほひもけおされて なか〱ことさましになむあそひなといとおもしろうし給て夜すこしふけゆく 程に源氏のきみいたくゑいなやめるさまにもてなし給てまきれたち給ひぬしむ 殿に女一宮女三宮のおはしますひむかしのとくちにおはしてよりゐたまへりふ ちはこなたのつまにあたりてあれはみかうしともあけわたして人〱いてゐた りそてくちなとたうかのおりおほえてことさらめきもていてたるをふさはしか らすとまつふちつほわたりおほしいてらるなやましきにいといたうしひられて わひにて侍りかしこけれとこのおまへにこそはかけにもかくさせ給はめとてつ まとのみすをひきゝたまへはあなわつらはしよからぬ人こそやむことなきゆか りはかこち侍なれといふけしきをみ給ふにおも〱しうはあらねとをしなへて
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のわかうとともにはあらすあてにおかしきけはひしるしそらたきものいとけふ たうくゆりてきぬのをとなひいとはなやかにふるまひなして心にくゝをくまり たるけはひはたちをくれいまめかしき事をこのみたるわたりにてやむことなき 御方〱ものみ給とてこのとくちはしめたまへるなるへしさしもあるましき事 なれとさすかにおかしうおもほされていつれならむとむねうちつふれてあふき をとられてからきめをみるとうちおほとけたるこゑにいひなしてよりゐたまへ りあやしくもさまかへけるこまうとかなといらふるは心しらぬにやあらんいら へはせてたゝとき〱うちなけくけはひするかたによりかゝりてき丁こしに手 をとらへて   あつさゆみいるさのやまにまとふ哉ほのみし月のかけやみゆるとなにゆへ かとをしあてにのたまふをえしのはぬなるへし   心いるかたならませはゆみはりの月なき空にまよはましやはといふこゑた ゝ それなりいとうれしきものから
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